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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アリシゼーション編
第一章•七武侠会議編
  古都漫遊

 
前書き
9月分滑り込みセーフ 

 
古い趣が残る街を私達は時折談笑しながら歩いていた。
木綿季は初めて見るものに興奮しているのか元気に歩き回り、水城殿……螢さんはそんな彼女に苦笑しながら付いて行く。
私にとっては見慣れた町並でも他所から来た人にとっては珍しく映る、と言われると何だか不思議な気持ちになるのだった。
6月とは言え、天気は生憎の曇りで少し肌寒いが、既に大分歩いているので体は暖かい。

……いやまさか、自社仏閣が建ち並ぶ京都の中心部に入った途端に名所巡りを強行することになるとは思わなかったが。

次々と有名な建物を回り(午後の微妙な時間だったので割と空いていた)、八ツ橋作りを体験し、景色を眺めて過ごした。

「あ……」

元々怪しかった天気がついに雨に変わった。まだ小雨のようだが、この降り方はやがて本降りになる前兆だ。
同じ事を思ったのだろうか、左隣を歩いていた螢さんが辺りをキョロキョロと見回すと、突然私の手を掴んだ。

「どこか建物に入って雨宿りしよう。降水確率はそんなに高くなかったはずだから、直ぐに晴れるよ」
「は、はい!」

手を繋いでいるというよりは掴まれている状態だが(ちなみに木綿季とは腕を組んでいる)咄嗟の事で心の準備が出来ていなかった。

水城螢。元七武侠、山東家の分家である水城家の次男。山東家の反逆に際し、その被害を最小限に食い止めた功労者の一人。剣才は平凡だが、統率力と戦術眼に長ける。恋人持ち。

自分が知っている彼の事と言えばこの程度だ。
後見人である華苑院様からは彼を自分の『剣と盾』にするよう勧められてはいるが……

「こら木綿季、まだ濡れてるぞ。拭いてやるからこっち来い」
「は〜い」

そう言って彼はハンカチで木綿季の頭や肩を拭いてあげている。その表情は言葉とは裏腹にとても優しげだ。

祖母も母もかつては皇の役を担った。2人の『剣と盾』は彼女の祖父と父だ。これは珍しい事では無く、皇の系譜では極々当たり前の事。つまり、

『剣と盾』はただの主従関係には留まらない。信頼し、信頼され、その命が尽きるまで寄り添い、共に歩む関係なのだ。
無論、歴史の中では同性同士だったりと例外はある。
私と彼は異性だ。慣習に当てはめるとそれは……つまりそういう事になる。
しかし、螢さんには既に恋人がいる。しかも、見ているこっちが恥ずかしくなるほどの睦まじさ。
華苑院様もそれを知っておられながら、何故あんな事を言ったのだろうか。
彼女が彼を推す理由はこの短時間でよく分かった。思慮深く頼りがいがあり、誠実な人だ。
しかし、残念ながら既に彼の隣は別の人のものだ。横取りする隙も無い。

彼らと話す傍ら思考がループしている事に気づかない程、友紀奈は悶々としていた。









入った建物は大通りに面する小さめのゲームセンターだった。この辺りの地区は京都の中心地区でも景観保護条例の範囲外となっている場所で、ゲームセンターの他に少し派手派手しい店が建ち並んでいる。
京都に来てまでゲームセンター、という人は居ることには居るが、大方を占めているのはやはり地元の若者達だろう。

「ねえ螢。あれ、やろ!」
「はいはい」

木綿季が指したのは『太鼓の○人』。若者達に人気のリズムゲームの中でも古くから愛され続けている筐体だ。
螢さんが財布から硬貨を取り出し、その筐体へ入れる。プレイ人数を確定し、選曲画面になるとあれこれ言いながら2人で選んでいる。

(はぁ……)

いやまあ、そもそも2人のデートにお邪魔したのはこっちなのだ。さっきから全く顧みられないとしても文句が言える立場ではない。
それでも、いや、それだからこそ…………

……いや、これはただの身勝手だ。実に勝手な事だ。相手は絶対に自分に振り向いてくれないと分かっている。
もっとこうすれば良かったとかそういう話ではなく、最初から、スタート地点から敗北が決定している事なのだ。競争にすらなっていない。

(何でだろ……分かってたのに)

初めて恋をした人が既に恋人持ちの人。しかも俗に言う一目惚れ。なんという少女漫画的展開だろうか。
自分が主人公なら大抵の場合、最後はハッピーエンドになるものだが、現実はそう上手く行かない。

皇は古く、格式のある家。京都にとどまらず全国のそう言った『普通の』家々との交流も盛んにある。
そう言った家々が集まり、縁を結ぶ場を幼い頃からよく見て来た。故に、彼女は常人より縁の良し悪し、結んだ者達の互いの気持ちを読む事が得意だ。
友紀奈から見て2人は不思議な存在だった。
相性の良いとか、そうゆうのでは無く、例えるなら『合わせて一つ』という関係に見えた。
互いに惹き合っているのでは無く、それが自然な形で違和感が無い。

そんなものを崩す、ましてや横入りする術は友紀奈には無かった。

「友紀奈?」
「っ⁉︎は、はい!」

ぼうっとそんな事を考えていたからなのか、目の前に突如現れた(ように見えた)螢に過剰に驚いてしまう。

「……済まんな、放っておいて。次は友紀奈の番、どこが良い?」
「え?どこが、とは?」
「友紀奈はどれで遊びたい?」

そう言って螢さんは辺りの様々な筐体を示す。

「え、でも……木綿季は……?」
「あー……いや、何かアレをいたく気に入った様でな……」

そう言って何故か疲れたように螢さんが指した木綿季は、先程の筐体で楽しそうに遊んでいた。というか画面を流れる音符がほぼ視認出来ない。そして嬉々として太鼓を叩いている木綿季の手が残像を残している。何これ。

「……でだ、何か遊んでみたいものはあるか?」
「そうですね……」

ゲームセンターに入った事が無いという程自分は箱入りでは無い。ただ、それは親しい友人に誘われて、プリクラという写真を撮った時に何度か入った事があるだけだ。興味を引くものは多かれど、遊んだ事は無かった。
結果的に選んだのはUFOキャッチャーだった。ゲームセンターと名のつく場所にはほぼ必ずあるもので、見ただけで大体の遊び方を察する事が出来るシンプルなもの。
ただ、コツを知らない者は絶対に取れず、あっという間に金を擦る魔の機械でもある。

上手く取れる自信は無いものの、両替した硬貨を手にその機械の前に立つ。プラスチックの壁の向こうにある景品は様々な大きさのぬいぐるみだ。

「……は⁉︎」

しかしそのぬいぐるみ、所謂『カワイイ系』というやつだ。つまり、デザインがどことなく子供っぽい。
慌てて螢さんの方を見てみれば、案の定というか……苦笑していた。まるで「こうゆうのが好きなのか、意外だなぁ……」とでも言いたげに。
いや別に嫌いな訳では無い。むしろ好きな方だ。子供の頃に買ってもらったりしたぬいぐるみは綺麗にして未だ部屋に置いてある。
たが、それは『秘密』にしておきたいものだ。寝る時はその日の気分に合わせてチョイスしたぬいぐるみを抱えて寝てるなんて事実を知られた暁にはいっそ死んでしまいたいレベルだ。

「あの、ですね……‼︎」
「ん?どうした?」
「別にこれは私の趣味とかそうゆうのではなくてただ単に……えと、木綿季さんから余り離れてませんしそうすれば螢さんも安心かなぁと思った故の選択であって決して欲しいからこの機械を選んだ訳では無いのをどうぞご理解して頂きたく……って、何で笑うんですかぁ⁉︎」

螢さんは横を向いて肩を震わせている。おかしくて仕方が無いというような様子だ。
やがてこちらに向き直った彼は私を見るとーーー多分、ふくれっ面になっていたのだろうーーー困ったような苦笑いをして言った。

「笑って悪かったよ。どうにも七武侠盟主、今代の皇というイメージから離れていたから……何だか、変な距離感を感じていた自分がおかしくなったよ」
「……変な距離感、ですか?」

その恥ずかしい肩書きはともかく、とりあえずその曖昧な言葉を指摘する。
すると、螢さんは肩を竦めて言った。

「俺は、中途半端な存在だ。怪しげな秘密武装集団に所属し、実家は古き武侠の末裔。一方で普通の高校生をして、良き友人達を持ち、恋人まで居る。対極の、二つの世界を日々渡り歩いて、どっちつかずの人生を送ってきた。こんな奇特な生き方をしているのは俺だけだと思ってたんだ。不安定で、曖昧な……危うく儚い存在。……そんな時、木綿季と再会して、どんな世界にいようと彼女と共に生きると決めた。木綿季のおかげで俺は水城螢として確固たる存在になれたように思っていたんだ」

螢さんはそこで言葉を切り、少し離れた場所にはいる木綿季を見た。

「だからかな……俺と似たような境遇にいるだろう友紀奈に、その……一線引いて接してた気がしたんだよ」

そう。それは私も同じ事を考えていた。七武侠盟主としての皇、その今代が私だ。一方で私は京都の古い良家である皇の娘として地元の私立高校に通って普通に学生生活を送っている。
二つの世界は時間軸、空間軸という概念で同一だが渡り歩いている者、私や螢さんのような境遇の人々にとっては水と油のように混じり合わない対極の別世界。
その境界は同一であるが故に曖昧で儚く、崩れやすい。

だが、その境界を崩れないよう死守するのが皇を始めとする七武侠であり、ホークスの様な秘密武装集団だ。
日常を営む人々を人知れず庇護する。そこには名声も利益も無く、感謝もされない。
混乱を招かない為に全てを隠蔽し続けなければならないのだ。

「けど、友紀奈は普通の女の子でもあるだよな。俺と同じように……」
「……そうですね。私も、少しそんな面を残していたのかもしれません」

硬貨を機械に入れ、ボタンを押してアームを動かす。一回、二回と挑戦するがどちらも失敗してしまった。
200円で一回、500円で三回というこの機械で、どうせ一回で取れる訳が無いと思っていた私は最初から500円を入れていた。

「……うぅ。取れません」
「……友紀奈、俺の言う通りに動かしてみてくれ」
「え?……は、はい」

螢さんはさっきから私が狙っている、背丈20cm程の白くまのぬいぐるみを見て「よし」と頷いた。

「行くぞ。横へ…………離して、奥…………そこだ」

言われた通りにボタンを操作して、アームは見事ぬいぐるみの付属の紐に掛かった。

「やった……⁉︎」

宙に持ち上げられた白くまが段々とゴールの穴まで運ばれて行って……途中で落ちた。

「あぅ……」

螢さんは、ガクッと分かり易く肩を落とす私の頭をポンポンと叩くと機械に近づいて行って、コツンと軽く機械を蹴った。いや、蹴ったとも言えない、軽く当てた程度の威力。
それが危うくぬいぐるみの斜面に引っかかっていた白くまを再び動かし……取り出し口に落とした。
そしてそれを取り出し、私に渡してくる。

「ま、少しズルイが良いだろ」
「あ、ありがとうございます」

彼は少し子供っぽく、イタズラをした子供の様な笑みを浮かべた。









雨も止みそろそろ時間的にも頃合いだ。とは言ってもあの屋敷に帰る必要は無い。適当な所に宿を取って若者らしく夜遊びをするのもまたありだ。
だが、俺は木綿季にも友紀奈にもそんな不節制な事をさせるつもりは無かった。適当な所で切り上げ、屋敷に帰ろうとしたのだが……。

「何故だ……」
「ん?どうしたの?レイ。早く迎えに行ってあげないと、ユキナが可哀想だよ」
「……ああ」

木綿季……いや、ユウキが俺の事をレイと呼んでいる。つまりココは京都の街中ではなくVR空間、妖精郷アルヴヘイム。ちなみにユキナとは友紀奈のプレイヤーネームだ。
より正確にはアルヴヘイムに浮遊する巨大な城、アインクラッド22層にある俺の家だ。
事の発端は先程のUFOキャッチャーで取ったぬいぐるみ。どこかで見たことがあると思っていたら、ALOでよく見かける雑魚モンスターの一種だった事に始まる。
友紀奈が持っていたぬいぐるみを木綿季が見つけ「ALOに居るやつだ!」となり、「私、気になります!」と言った次第。

しかし、思い立ったその足で電気屋に向かい、アミュスフィアとALOのソフトを購入し、ネットカフェに突入するなど誰が思っただろうか。
まあネット環境が無い屋敷ならともかく、ストレス解消にネットカフェに行ってALOで遊ぼうとアミュスフィアを2つ持ち歩いていた俺もどうかと思うが。

「……シルフにしたのか。スイルベーンまで今なら30分くらいで着くな。行こう」
「うん!」

スッと目を開け、座っていた重厚な木製の椅子から立ち上がり、天窓を開く。

外は初夏の暖かな陽気。季節の移ろいと共にもう一つの世界もまた、変革が始まろうとしていた。
 
 

 
後書き
木綿季は凄い音ゲーマーになりそうですね(笑)
UFOキャッチャーに限らず、ゲームセンターの機械を蹴ったり揺すったりするのは例え、今回の螢のように『軽く』でも重大な迷惑行為です。良い子は真似しないようにしましょう。自分も螢も責任を負いかねます。

さて、レイはどうして友紀奈がシルフを選んだのだと分かったのでしょうか?
事前に決めていた訳ではありません。友紀奈はプレイヤーネームをユキナにするという事だけしか明かしていませんでした。
ALOの世界設定である『あの話』に詳しい方ならピンと来たかもしれませんね。 
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