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ツンデレ

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第五章


第五章

「普通に考えたら成功するだろうがな」
「あいつじゃなきゃな」
 そんな話をしながら紅茶のストローをいじりながら話をする。見れば紅茶は減っておらず氷が溶けていくだけであった。
「絶対に上手くいくんだが」
「あの鈍感さじゃなあ」
 二人は困り果てた顔で言い合う。
「何とかならねえのかよ」
「ならねえんじゃねえの?」
 こう言葉を返す。
「あれだと」
「やれやれだぜ」
「全くだ」
 またしても溜息を出す。今度は実際に出す。
「どうなることやら」
「見守っておくか」
 そんなことを言い合いながら聡と絵梨奈を見守るのだった。二人が見ているその前で聡は店に入る。店に入ると鈴の音が可愛らしく鳴った。すると絵梨奈はそれだけで顔を勢いよくあげたのだった。まるで知っていたかのように。
「来たのね、やっと」
「やっとって?」
「連絡が・・・・・・何でもないわ」
 カウンターに座ったまま聡から顔を背けて言う。何故か白い顔が少し赤くなっている。
「何でもないから。来ないと思ってたわよ」
「そうなんだ」
 彼は何もわからずそう言葉を返す。
「何でかな」
「私の勘よ。けれど外れたみたいね」
 顔を背けたまままた言う。
「それで。今日は何の用なの?」
「また買いに来たんだけれど」
 目を少ししばたかせた。やはりここでもまだわかっていない。
「駄目かな」
「いいわよ。じゃあ何を買うの?」
「ええと。そうだなあ」
 この前見て目をつけていたぬいぐるみに目をやる。大きな黒い鹿のぬいぐるみだ。それを買おうとそちらに動くとすぐに絵梨奈が出て来た。
「これなのね」
「うん、そうだけれど」
 自分の側にやって来た絵梨奈にそう答える。
「駄目かな」
「いいわ」
 じっと聡の顔を見ながら答える。
「ただし。定価通りよ」
「そうなんだ。今日は」
「当たり前よ。この前は特別サービスだったから。けれど」
 ここで顔が微妙に変わってきた。目が少しカマボコ型になって口を波線にさせる。何かを我慢しているような顔を聡に見せてきたのだ。
「あげたいものがあるの」
「あげたいもの?僕に?」
「そうよ、これ」
 そう言って何かを差し出してきた。
「受け取りなさい。断る権利はないから」
「!?これを?」
 見ればそれはテーマパークへのチケットだった。聡はそれを見て目を丸くさせた。
「そうと。受け取ってね」
「う、うん」
 受け取りながら答える。ここでやっとわかったのだった。
「あの、それじゃあ」
「違うわよ」
 また彼から顔を背けて言うのだった。
「ただチケットが余ったから。それだけなのよ」
「そうなんだ」
「そうよ。それでまた言うことがあるわ」
 顔を背けたまま顔を赤らめさせて言葉を続ける。恥ずかしがっているのがわかる。
「あのね、また店に来てくれるのよね」
「うん」
 絵梨奈の気持ちをやっと知ったうえでの言葉だった。
「僕でよかったら」
「そうよ、別に来なくてもいいけれど」
 そうは言っても心は別なのはもうわかることだった。だがその口調は変わらない。
「いいのよ。それでも」
「来るよ」
 彼はまた言う。
「会いにね。それでいいよね」
「勝手にしなさい」
 そう言葉を返すのだった。しかしこれで二人の仲は決まったのだった。
 聡は一人で店を出た。しかしその手には大きなぬいぐるみを幾つも持っていてそのうえ頬には紅い唇の後があった。
 少し照れ臭そうな顔をしている。二人もそれに気付いた。
「よお」
「何かあったのかよ」
「ちょっとね」
 その照れ臭そうな顔に笑みを交えて応える。
「告白されたよ」
「へえ」
「やったじゃねえかよ」
 二人はそれはもうわかっていたがそれでも応えた。
「それであれか?今度デートでもか?」
「そうなんだ」
 そう二人に答える。
「ちょっとね。今度の休みに」
「当然行くんだよな」
「断ったら許さないって言われたよ」
 絵梨奈も強引に話を進めたのだ。やはり聡と一緒にいたいからなのだ。
「だから」
「そうか。まあ頑張れよ」
「応援しているからな」
「けれど。わからなかったよ」
 彼は困った顔で二人に言うのだった。
「わからなかった?」
「何がだよ」
「だからさ。僕のことが好きだったなんて」
 その困った顔で述べる。やはり気付いていなかったのだ。
 
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