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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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StrikerS編
  75話:FW vs 副部隊長

 
前書き
 
遅くなりました。
  

 
 



シュミレーターで映し出されたビル群の中で、フォワードの四人はかなり緊張していた。
目の前に立つのは自分達の上司である、門寺副部隊長。彼は昼休みにあった時とは違い、自分達と同じような動きやすい格好をしており、手には指の第二間接から先が出る黒の手袋をしていた。

「よし、こっちは準備完了だ。何時でもいいぞ、なのは」
『了解、皆も準備いい?』
「「「「はい!」」」」

四人もデバイスを構えて準備を整える。士はそれを見て自分のデバイス―――トリックスターを取り出して腰に取り付ける。
それを見た四人は、あまり見ないベルト型のデバイスに驚きながらも、それは結果的に四人の気を引き締めることになった。

「それじゃあお前ら…覚悟し―――」
『あ、士君は変身とライドブッカーは禁止だよ』
「あぁ!?マジかよ!?」
『新人にはまだ早いよ』
「ちぇ、残念…」

なんか士が残念がっているが、四人にはあまり話が見えてこないで少し疑問を覚える。
『じゃあ代わりに…』となのはが続けて、上から何かを放った。

士の上に落ちてくる物に気づいた四人は、あっと声を上げたが士は見上げるだけで動かなかった。
そして頭に当たる直前、士はその落ちてきた物を掴みそのまま勢いよく振り回す。

最後に横に振り抜いてから、その先を地面に突き刺した。

「―――んだよ、棍棒かよ!」
『十分なハンデだと思うけど?』

まったく、と受け取った棍を肩に当て、士は不満げな態度をとっていた。
しかし、フォワード陣の心境は恐怖でいっぱいだった。先ほど見た士の棍の扱い方が、四人を恐怖を与えるのに十分だったのだ。

((((ハンデになってない、これ絶対にハンデになってない!))))

そんなフォワード陣の心境を知ってか知らずか、士は渋々納得した様子でこちらを向いてきた。

「まぁ教導官(なのは)の言うことなら、仕方ないか…」
『納得してくれたところで、ルールを説明するよ』

納得してないですよ、と思うがそれを言える筈もなく、四人は黙ってなのはの説明を聞いた。
形式は模擬戦で、フォワード陣は士に一撃クリーンヒットさせれば、士は四人を戦闘不能にすれば勝ち。尚四人の戦闘不能はなのはが判断する、という具合だ。

「んじゃま、やりますか」
「「「「は、はいッ!」」」」
「そんな緊張しなくていいって」

棍を肩に担いだまま士は笑って言う。しかしそんなことを言われても、目の前に立つのは陸のエースと呼ばれる人だ。嫌でも緊張してしまう。
その様子を上で見ながら、なのはは『レディ~…』と言う。下にいる全員が各々気を引き締め、なのはの次の言葉を待つ。

『ゴーッ!』

その言葉と同時に、フォワードの四人が一斉に動き出した。
エリオとティアナはそれぞれ横に飛び出し士の両側へと向かう。キャロは後方へ飛び、士の動きを伺う。

そしてスバルは……

「オオオオォォォォォォ!!」

リボルバーナックルを構えまっすぐに士へ突っ込んでいく。なのははそれを見て、(あちゃ~突撃思考…)と頭を抱えた。
これは直前でティアナが出した指示であり、少しリスクの高い賭だった。

(どう出るかわからないけど、とりあえず一発狙いにいく!)

これは同時にスバルの即リタイアの可能性が高い。そうなれば攻撃力を欠き士攻略は難しくなる。
かと言って何もせず待つか逃げるか、という選択では模擬戦の意味がない。

「いいね…そう来なくちゃぁな!」

そんな考えをしていると、士は棍の端を持ち振り上げる。それを見たスバルは左手に魔力強化を施し、頭の少し上でガードできるようにする。
しかし士はそれを見て口角を少し上げ、そのまま腕を振り下ろす。このままでは棍はスバルの腕に阻まれ当たることはない。尚且つその攻撃の隙を狙い、スバルが一撃当てることができるかもしれない。

ティアナはそう考え、自分の作戦は間違ってないと確信を得る。
しかし、そんなティアナの思惑とは裏腹に……

「―――……え…?」

士の腕はしっかりと〝振り切られていた〟。
しかもそれによるスバルへの衝撃は一切なく、スバルは思わず呆けた声を上げる。そんなスバルの視界には何故か振り切られた士の両手があった。

そしてその手には―――何も〝握られていなかった〟。

「あ、あれは…!」

逆に遠目からそれを見ていた他三人は、空中を見上げ驚いていた。
そこには先程まで士が持っていた筈の棍棒が、回転しながら上げられていた。

タネ明かしをすると、士は振り下ろす瞬間わざと棍をすっぽ抜かし、空中へ放り投げたのだ。
そしてこの瞬間も動揺しているスバルの隙を突こうと、左手で拳を作る。

それを見たスバルは慌てて拳を構える。そしてほぼ同時にお互いの拳を突き出し、拳は轟音を奏でぶつかり合う。

「わぁッ!?」

後退させられたのはスバルだ。先程のことがまだ糸を引き、動揺を抑えきれなかった分力を入れるのが遅れたからだ。
しかしそれがなくとも、おそらくスバルは押し負けていただろう。何せ今の状態でスバルは空中で半回転させられる程、力負けしているのだから。

これには三人も驚かされた。四人の内一撃の攻撃力が最も高いのはスバルだ、ということを知っていたからだ。
だがその中で、唯一次の行動に移った者がいた―――ティアナだ。

(副部隊長の唯一の武器は空中、今あれを狙えば副部隊長は武器を使えなくなる。そうなればこちらが少しでも有利になる!)

そう判断したティアナは、アンカーガンの銃口を空中の棍に向け、魔力弾を放つ。
棍へと向かうオレンジの魔力弾。このまま行けば確実に当た―――

ダァンッ!
「ッ!?」

その瞬間、オレンジの魔力弾が突如として破裂し消滅した。
何事かとよく見ると、オレンジ以外にピンク色のような魔力も四散していた。ティアナが士を見ると、彼は口角を更に上げて笑みを作っていた。

(まさか…全部読んでいた…!?)

ティアナが棍を狙ってくることを読んで、予め魔力弾を出していたとしたら……
もし今までの流れが、読まれているとしたら……

「うおおォォォォォ!!」
「っ、スバル待って…!」

その時先程飛ばされたスバルが、体勢を立て直し再び士に向かっていく。
ティアナは制止の声を上げるが、どうやらスバルの耳には入らなかったらしくそのまま突っ込んでいく。

それを見た士はまた口角を上げる。まるでスバルのその行動も読めていたと言うように。
そして今度は目一杯に右手を引き、拳を作る。

(さっきスバルと衝突した時は左手を使ってた。なら利き手の右手なら…!?)

[スバル、このままじゃマズい!一旦引いて!]
[えぇ!?でももう…!]

間に合わない。それはスバル自身も、彼女と付き合いの長いティアナにもわかることだった。
スバルと士の距離は約三、四メートル程。スバルの今のスピードでは止まろうとしても、結局士とぶつかるだけだ。

ならば―――

(とにかく当たってみる!)

スバルは危険を承知で行動を続行した。ティアナも考えは同じらしく、ならば自分のできることを、と銃を構えた。
だがその時には横から魔力弾が二発迫っており、それに気づいたティアナは思わず飛んで避けた。

これによってティアナからの援護射撃はなくなったが、スバルはそのまま突っ込んでいく。
そして遂に引き絞られた二人の拳がぶつかり―――


合わなかった。


(え…?)

最初に驚いたのは、スバルだった。士の拳は衝突する直前で進路を若干(スバルから見て)外に変え、そのまますれ違おうとしていたのだ。
何故? とスバルが思った瞬間、士の右手がスバルの腕をがっしり掴んだ。

またも驚くスバルだが、士の拳はそんな事気にせずバッと開かれスバルの腕を掴んだ。
そしてそのまま右足でスバルのローラーを蹴り、掴んだ腕を円を描くように引っ張る。すると足をすくわれ勢いそのままに、スバルの体が宙に浮いた。

頭を下にした状態でスバルが見たのは、驚いた表情の仲間と……笑みを浮かべる士の姿。


「―――ちゃんと防げよ」


「っ!?」

その言葉が聞こえた瞬間、スバルは胸の前辺りで腕を交差させ、更に防御魔法を展開する。
しかし士は構わず足払いした右足で一歩踏み込み、スバルの腕から離した右手で裏拳を放った。

物凄い衝撃と共にスバルは防御魔法ごと一直線にビルに突っ込んでいった。

「スバル!」
「スバルさん!」

ティアナとエリオはそれを見て、思わず叫んだ。
士の裏拳は目で追いきれない程速く、スバルにまともに当たったと思ったからだ。

「ちぇ、やっぱ硬ぇなあいつの防御」

そんな二人とは裏腹に、落ちてきた棍を掴んで右手をぶらぶらさせて呟いた士。防げよ、とは言ったもののある程度加減した、だが防御を打ち破るつもりで放った一撃が、彼女の防御を打ち破ることなく完全に防がれたのだ。
改めて彼女の防御力の高さを確認し、かつ“あの人”の娘なんだなと心の中で実感する。

「なのはさん!スバルは…!」
『大丈夫、士君も加減してたしスバルもちゃんと防いでた。スバルはそのまま続行だよ』

なのはの言葉に内心安堵するティアナ。防いでいたなら、頑丈な彼女なら怪我はないと思うし、これから士と戦うには攻撃の手数は多い方がいい。
そう考えつつ、ティアナは次の指示をエリオとキャロに送る。

[キャロ、悪いけどスバルの様子見てくれる?]
[は、はい!でも士さんを抜けて行くのは難しいかと…]
[そこは私とエリオで隙を作るわ]
[ぼ、僕もですか!?]
[当然でしょ!私一人じゃ太刀打ちできないんだから]

念話を送り終えるとティアナは銃を構え直す。少し距離の離れたエリオも覚悟を決めたようで、自分のデバイス―――ストラーダを両手に握り締める。
それをスバルがいるであろう場所から視線を外した士が見る。

「今度はティアナとエリオか…」

そう呟いて士は此方を向き、棍を肩に担ぐ。そしてキャロを一瞥してから親指を立て自分の後ろ―――つまりスバルが突っ込んでいった場所を指した。

「キャロ、早くいけよ」
「……え…?」
「スバルのところに行くつもりだったんだろ?別に何もしねぇから、行ってやれ」

士の言葉に三人は目を丸くした。キャロとエリオはティアナの指示が読まれたことに対してなのだが、ティアナは読んだ上でそれを阻止しないことに対して驚いたのだ。
キャロはティアナへ大丈夫かと念話を送る。それに対してティアナは最大限に警戒しながら行くように指示を出し、それを受けたキャロは士を警戒しつつスバルの元へ走っていった。

「…何のつもりですか?」
「何って、キャロを行かせたことか?スバルがまだ動けるなら、そっちの方が楽しいからな」
「……それはハンデと受け取ればいいんでしょうか?」

そんなつもりはないんだけどなぁ、とあくまでおちゃらけた様子でいる士。しかしティアナの表情は変わらなかった。

顔硬いな~、と心の中で思いながら肩を落とし、士は口を開いた。

「この模擬戦はあくまでお前らの実力を見る為のもの、そんな硬くなってたら実力出せなくな~い?」
「……え?この模擬戦はその為に?」
「あれ?なのはから聞いてない?」

あちゃ~、後でどやされるぞきっと。
そう言いながら頭をかく。ティアナは少し呆気に取られたのか、口が半開きになっていた。

「俺は基本的に現場指揮を任される立場だ。それなのに前線メンバーの実力も知らないとか、問題外だろ?」
「ハァ…」
「だから今度は―――」


「お前ら二人の実力、見せてもらうぞ」


その時ゾクリと、ティアナの背中に寒気が走る。今の士の表情が模擬戦前になのはが見せたあの黒い笑みに似ていたからだ。
近くにいたエリオも同じことを思ったらしく、顔を強ばらせて両手に力をいれた。

仕掛けるならこちらから、主導権を握られたらこっちに勝ち目はない。
そう踏んだティアナはエリオに念話で、指示を出そうとした。

[エリオ、先に仕掛けるわよ。いい?]
[…………]
[……エリオ?聞いてる?]

ティアナは再び呼びかけるが、エリオからの返事はない。流石に疑問を覚えたティアナは隣にいるエリオの方へ顔を向けようとした。

しかしティアナの顔が完全に横へ向く前に、エリオの姿が映った。
エリオは前に歩いていた―――つまりは、士に向かって歩いていたのだ。

「ちょっ、エリオ!?」
「すいません、ティアさん。ちょっとの間だけ時間ください」

呼び止めようとしたティアナを逆に制し、エリオはそのまま前に進む。
そして士との距離が5、6メートル程になったところでエリオは止まって士をまっすぐ見据えた。

「お、一対一(サシ)でやろうってか?いいねエリオ、俺はそっちの方がすk―――」

「士さん!!」

急に張り上げられたエリオの声に驚いて士は言葉を切った。真剣なエリオの表情を見て、士は彼の次の言葉を待つ。
エリオはゆっくりと小さな深呼吸を一回。こんな時に、大事な模擬戦で言うことじゃないのはわかってます。でも今言わなきゃ、後回しにしちゃいけないと思うから。

「〝あの時〟の質問を……答えさせてください」

その言葉に士は眉をピクリと動かした。 なんの事かわからないティアナは首を傾げたが、士には分かった。

「昔に何があったからって、今の『僕』が変わる訳じゃない」

『僕』は『僕』だ、それは今もこれからも変わらない。


「僕は『僕』―――『エリオ・モンディアル』です!」


そう言い切ったエリオ。士は鼻で息を吐き、棍を肩に担ぐ。

「そうか…」
「はい」

自信のある返事に、士は空を仰いだ。
そして顔を戻した時には、先程の黒い笑みとは真逆の、なんの裏のない満面の笑みをしていた。

「いい答えだ」
「っ…!」
「その答えが……聞きたかった。合格だ!」

ほんと子供は、成長するのが早いな。
そう呟いて肩に担いでいた棍を振り回し、再び地面に突き刺した。

「来い、全力で相手してやる。お前も……全力で来い―――『エリオ・モンディアル』!」
「っ!!」

目を見開くエリオ、若干顔を俯かせてから笑った。そしてストラーダを振るい、士を見据える。
それぞれが己の得物を構え、己が敵と見定めた相手を見据え相対する。

「…はい!よろしくお願いします、士さん!」
「おう…来い!」



  
 

 
後書き
 
あぁ…夏休みが、終わる……
  
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