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地味でもいい

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第一章


第一章

                      地味でもいい
「えっ、不死身に?」
「あの娘に?」
 クラスの中でもとりわけ騒がしい女三人組がまず驚きの声をあげたのだった。
「あの娘に用があるの?」
「嘘でしょ」
「俺は嘘なんか言わないけれどね」
 問うたのは山川涼平であった。一九〇近くはある長身にデビルマンを思わせる蝙蝠形のしっかりとした濃い眉は少し太めである。ほっそりとした顔に一重のしっかりとした丸めの目を持っている。髪は中央で分けた茶髪である。少し伸ばしていてその細さと量の多さが目立っている。赤いブレザーとグレー系のズボンの制服がよく似合っている。
「それも全然」
「全然ねえ」
「どうだか」
 しかし三人組はそんな彼の言葉をまずは疑う目で見てきたのだった。そうしてそのうえでおかしそうに笑いながら声をかけてきた。
 見れば一人は赤髪をショートボブにしている。それがリーダー格である。一人は黒髪を上で束ねていて背が高い。最後の一人は茶髪をショートにしている小柄な女の子だ。その三人がおかしそうにそのうえで涼平を見て言うのである。女の子の制服は男と同じ赤いブレザーで下はグレー系のスカートである。ただし誰もがかなり短く折っている。
「山川だからね」
「どうだか」
「何か俺が嘘吐きみたいな言い方だね、そりゃ」
 わざととぼけてみせたかの様な返答を出してみせたのであった。
「またどうしてだよ」
「どうしてもこうしてもねえ」
「ねえ」
 三人組はここでまた言うのであった。
「何で不死身なのよ」
「そうよ、不死身なの?」
「そもそも何なのその仇名」
 涼平はそこを三人に問うた。
「何であの娘が不死身なわけよ。別に車に何度撥ねられても無傷だったとか絶対に死ぬ病気から蘇ったってわけじゃないんだろ?」
「まあね」
「そういうわけじゃないけれどね」
 三人もそれは違うと答える。
「それはね」
「まあ只の仇名だし」
「だから何でその仇名なわけよ」 
 涼平はさらに三人に突っ込みを入れた。
「不死身なんてそれこそ特撮のヒーローみたいなさ」
「だってあの娘の名前冬美っていうじゃない」
「それは知ってるよ」
 三人組のうちの一人の言葉に応えるのだった。
「もうさ」
「それとあの娘地味だから」
「冬美と地味を合わせてね」
「それで不死身ってわけなのよ」
 それでそういう仇名になったというわけである。
「これでわかったかしら」
「そういうことなのよ」
「ああ、これでわかったよ」
 三人のその言葉に頷く涼平だった。
「それでなのか」
「そうなのよ。まあ悪意とかはないけれど」
「それで仇名にしたんだけれど」
「実際に存在感ないし地味でしょ」
 三人は口々に彼に話をしていくのであった。
「それでだけれどあんた」
「その不死身に何の用なのよ」
「あっ、ひょっとしてまさか」
 その小柄な娘が言ってきたのだった。
「デートに誘うとか?」
「えっ、まさか」
「それはないでしょ」
「そのまさかだって言ったらどうするよ」
 楽しそうに笑って三人に返す涼平であった。
「その場合は」
「やっぱり嘘でしょ」
「それって」
「いや、これが嘘じゃないんだよ」
 しかし涼平はそれを否定するのだった。
「あんた達にとっちゃ驚きだろうけれどな」
「っていうかまじ有り得ないんだけれど」
「本気なのよね」
「だから俺は嘘は言わないって」
 またこう返す彼であった。
 
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