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何度玉砕しても

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第二章


第二章

「あのさ」
「はい?」
 高くて可愛い澄んだ声であった。その声もまるで声優のようだった。
「呼んでる人いるんだけれど」
「私をですか?」
「うん」
 それは実は自分のことだというのは隠している。あえて隠している。
「ちょっとこっち来て」
「はい」
 こうして一旦教室から出る。省吾はそんな二人を見て一人呟くのであった。
「まあ駄目だろうな。多分」
 彼はそう見ていた。そしてその言葉は当たるのだった。
 利光は彼女をそのまま校舎の隅に案内した。そこには誰もいなかったからだ。
「ここにおられるんですね」
「うん」
 そこまで来て彼女に応えた。
「そうだよ、ここにね」
「それで誰ですか?」
「俺だよ」
 すんなりと彼女に言葉を返した。
「えっ!?」
「だから俺」
 また彼女に答える。
「俺がその待っている相手なんだよ」
「えっ、けれど」
「うん、まあちょっと話がしたくてさ」
 少し照れながら述べる。
「ちょっとね、ですか」
「いいかな」
「ええ、まあ」
 彼女はこくりと頷いて答えた。けれどその顔はまだキョトンとしたものであった。
「それじゃあさ、聞きたいことがあるんだ」
「私にですよね」
「他に誰かいる?」
 利光はにこりと笑って言葉を返した。ここでの言葉のやりとりは完全に計算のうえでのことであった。彼も彼なりに頭の中で色々と考えていたしいるのである。
「いませんよね」
「そうだね」
 この言葉は少し意外であった。彼女の今の言葉は彼が考えているよりもとぼけたものであった。どうやら天然であるようである、心の中でそう思った。
「それでね」
「何でしょうか、それで」
 彼女はまた問うてきた。利光に対して。
「私に御用なら」
「名前、何ていうのかな」
 利光はそう尋ねてきた。ようやく本題に入ったといった感じであった。
「私の名前ですよね」
「うん。何ていうの?」
「月上です」
 利光の問いに応えてそう名乗ってきた。
「月上さん?」
「はい、名前は幸恵です」
 今度は名前を名乗ってきた。これは利光も予想していた。といってもこれは言うならば当然の流れであるので利光の方でも特に驚いてはいなかった。
「月上幸恵さんっていうんだ」
「はい、両親が幸せがあるようにって」
「名付けてくれたんだね」
「ええ」
 また利光の言葉に頷くのだった。
「いい名前だね」
 利光はそこまで聞いてにこりと笑った。これは彼のシュミレーション通りである。
「幸せがあるようにって」
「有り難うございます」
「御礼なんていいよ」
 ここで度量の広いところを見せた。ここでもまたシュミレーション通りである。彼は心の中でいい感じで話が進んでいると思っていた。
「そんなのはね」
「そうなんですか」
「うん、それでさ」
 利光はここでミスを犯した。もっとじっくりとやるべきだったがついつい焦ってしまったのだ。しかし実際には焦ってもどうやってもこの時の結末は決まっていたので実際にはどうということはないのであった。
 
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