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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第92話 伝わるもの ①


 出て行く紘汰と貴虎を見送ってから、咲は元の席に戻って座り直した。その隣にヘキサも座った。

「あいつはまたこんなに残して……」

 坂東が、紘汰のいた席にまるごと残ったナポリタンを見下ろして、溜息をついた。

「『また』?」
「ああ。ここんとこあいつ、ウチに来てもほとんど食わねえんだよ。最初は、何だ? ドライバーがどうとか言ってたけど、今日のはさすがになあ。ストレス胃に来たのかあいつ……」

 ぶつくさ言いながら阪東は皿とコップをトレイに載せて裏に引っ込んだ。

「そういえば咲は? あれからヒマワリ、使った?」
「んー、いち、にぃ、さん……うん、3回だけ」
「体、だいじょうぶ?」
「うん。ちょっとねむたくなるだけ」
「……むり、しないで」
「気をつける」
「ほんとに?」
「……気をつける」
「もう」

 きっとヘキサにも、咲が「気をつける」気がないのは筒抜けだろう。それでもヘキサは怒らない。咲の道を肯定してくれている。

「貴虎お兄さん、紘汰くんに何の用なんだろ」
「多分、光兄さんのこと。大変なこと、光兄さん一人に押しつけちゃったから。わたしも、貴兄さんも」
「……ごめん」
「どうして咲があやまるの?」
「だって」

 光実が孤立したというなら、それはヘキサと貴虎を攫った咲が原因の大半を担っている。

「ねえ、咲。言うのが遅くなったけど」
「ん?」
「あの日。わたしたちのこと、たすけてくれてありがとう」

 ヘキサは極上の笑顔で言い切った。感謝している、咲は悪くない、と。たった一度の「ありがとう」に全て詰め込んでくれた。

「……どういたしまして」

 人は、これだけのことで、本当に多くを伝えられる。それだけで、人類の未来さえ明るいものに思える咲だった。

「あのね、咲。気になることがあるの。相談、のってくれる?」
「もちろんっ」


 ヘキサは話した。前日の光実との再会と、光実の態度の強硬さを。

「あの光実くんが? ほんとに?」
「うん。でも、だから心配なの。わたし、光兄さんがああいうタイドしたの、レデュエがいたからじゃないかなって思うの」
「敵をだますにはまず味方からってやつ?」
「うん。兄さんは今、フェムシンムの中でも、高い位置にいるって聞いた。その兄さんが、独りぼっちになってまで、どんなふうにわたしたちを救おうと考えてるかまでは、わたしにもわかんないけど」

 敵がうじゃうじゃいる中に、次兄一人。ヘキサが心配しないわけがない。

「光実くん、頭いいもんね。きっとあたしたちの想像もつかないようなこと、やらかしてくれるんじゃない?」
「そうだと……いいけど」
「あたしは光実くんが出し抜くほうに一票」
「じゃあ、わたしも」
「賭けにならないじゃん」
「えへへ」

 少女たちは手を繋ぎ合った。少ししか離れてなかったのに、とても懐かしい感触だった。 
 

 
後書き
 可愛い幼女が二人できゃっきゃうふふしてると癒されますよねって話。
 思えばこのツーショットも久しぶりな気がする作者です。デェムシュ戦以来ずっと離れ離れでしたからねえ。しみじみ。

 不意に一言や仕草一つで相手が何を思っているか分かる瞬間って、誰にでもあると思う。 
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