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【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
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例えばこんなガチバトルは流出させられない

 
前書き
月一更新と言ったな、あれは嘘だ。 

 
 
――はらり。

桜の花びらが、舞う。

――はらり、はらり。

二枚、三枚、やがて数えるのも億劫になるほどにはらはらと。これでアリーナという無骨な場所でなければもっと風情があったろうに、そこは残念ながら花見をするほどのんびりできる場所ではない。
そう、これからそれどころではなくなる。

「あぁ~・・・もうっなんでこうなるの!?オウカ、全力でやっちゃって!!」
『うん!桜花幻影、エネルギー充填130%オーバー・・・全チャンバー解放しますッ!!』

瞬間、桜花の背部非固定浮遊部位、スカートパーツ、脚部に存在した高速結晶散布用のチャージチャンバーが一斉に解放され、全身のバリアから散布されるそれと比べ物にならない量の結晶花弁が解き放たれた。

それは桜吹雪と呼ぶのも生温い。濁流のようにあふれるそれは、もはや桜の津波となってアリーナの高大な体積を瞬く間に飲み込んでゆく。桜花の命に従い姿を現した、彼女の矛であり盾、そして兵たちだ。
爆発的な勢いをもって噴出したそれは、特殊な結合性質を遺憾なく発揮し、その余波だけでアリーナの全監視システムに致命的な止めを刺した。

しかし、そうでもしなくてはジェーンに勝てない。そうゴエモンとオウカの2人が確信したから実行したのだ。もはや交渉の余地はないらしい。命よりも大切な王様(ゴエモン)を守るため、桜の女王が剣を掲げた。

「ぅぅぅぅぅうおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」

直後、大気を揺らす化物の咆哮が、桜の女王の威厳を食い潰さんと突進する。
花弁散布領域が広がるその直前に、爆発的な加速を乗せたスライサーの一閃が巻き起こす真空刃がニヒロの通る道をこじ開けた。横薙ぎの斬撃が裂いた桜道を、その身をあちこち赤く染めた白い獣が疾走する。

紛れもない猛獣でありながら、人を寄せ付けぬ孤高の優美を内包した肢体。その野性的な闘志を示すが如く、身に纏った鎧に埋め込まれる結晶石が爆発的に輝く。残像さえ浮かぶ純白の飛沫を捲き散らしながら加速し、その爪を振るった。
音を置き去りにしたその斬撃は技と呼ぶには余りにも粗雑。力任せのそれはしかし、野生の節理に従った上でなら無駄のない斬撃。その斬撃を、極限までバリアエネルギーを纏わせた妖刀「散華」が真正面から迎え撃った。

「グッ・・・ガぁぁぁぁぁぁあああああ!!!」
『ゴエモンに・・・乱暴する人は・・・めぇぇぇぇぇぇぇッ!!!』

女と女、スライサーの淡い緑と散華の紅染みた粒子、その膨大なまでの運動エネルギーのぶつけ合いは互いの刀身を弾き、更なる剣劇の始まりを告げた。
振りかざされた刃は引くことを知らず、何度も何度も正面から愚直なまでに激突し、火花を散らす鮮やかな火花と甲高い激突音ばかり響く。一撃一撃に相手を戦闘不能に追い込まんとする本気が封入され、一つでも受け損なえばその瞬間敗北が決まるほどの気迫で振るわれている。

2人とも純粋な剣士ではないが、それでも彼女たちの最も信頼する武器はどこまでいっても剣だった。――ただ、剣を活かす方法が純粋な剣術ではなかっただけだ。

予測、全力、立て直し、既に平均的なISの剣劇速度を超過した激突はアリーナをゆるがし、衝撃は大地をめくりあげ、激突の度に発生する膨大な衝撃波が大気を伝わってあらゆる電子機器や物質を破壊してゆく。幾度も幾度も繰り返される剣の激突――先にその結末を察したのはジェーンだった。

「グぅ・・・ウウ!?」

獣のように叫ぶばかりだったジェーンの瞳に僅かな理性が戻る。剣劇を繰り広げるうちにその異常に気付けたのは、戦士としての誇りゆえか。――剣に掛かる圧が、段々と増している。いや、それだけではない。彼女の顔すら照らす光が、自分の掲げた剣の前から溢れ出ていた。

『ゴエモンは私のパートナーなの・・・ゴエモンと一緒にいて、一緒に笑って、一緒に喜んでぇ・・・・・・!!』

――オウカだ。桜花の体が発光している。桜吹雪がオウカの体に吸い込まれるように集まり、粒子が圧縮されていく。もはやゴエモンも含めてすべての装甲板が、パーツが、その桜色の閃光そのものであるかのように輝いていた。何所か安心が心へ直接伝わるような、暖かくも力強い煌めき。

そこから伝播するのはエネルギーだけではない。意志が、オウカの意志が真正面から圧力になり、まるでその空間すべてがオウカの意志を持っているかのように獣を圧倒する。奪われていた威勢が押し返されていた。
その気迫を言い表す言葉があるとしたら、それは――

『だから、そんな怖い顔してゴエモンを困らせるのは・・・・・・ぜっっったい!ダメなんだからぁぁぁぁぁーーーーッ!!!』

――迸るISのエネルギーが爆発した。スライサーの刃がギャリギャリと不快な異音を立てて散華に押される。押される。押し込まれる。

ISの放つエネルギーにはそのすべてに精神感応性質が付加される。今やオウカの纏う粒子はそれそのものがオウカの意志として動く。かき集められた膨大なエネルギーはもはやシールドバリアにも匹敵する鎧となって身を包み、刃に集まる力は純粋な破壊力として馬力や質量からはじき出される値を超越していた。

既に散華が纏うのはエネルギーの。桜の滝。人の抗うことが出来ない脅威の壁が、大きく、重く、その刀身の100倍近い範囲にエネルギーを放出し、S.A.最強の尖兵を退けんとした。その想いは強く、儚く、そして可憐で苛烈。息を呑むほどの美しさに込められたそれは、地を割り海を裂いてなお有り余る、人の手の届かざる領域へ。


――桜花幻影終極奥義 三春滝桜(みはるたきざくら)――


これはまるで巨人の一刀だ。ニヒロの体の何十倍もあろうかと言う膨大な質量が立ちはだかり、それに大地を割る一刀を押し付けられているかのような気分だった。空間が諸共的に回った。間違いない、これは――

今までオウカは本気で相手を打倒しようと考えたことはない。それは他の姉妹を助けるためだったり、ゴエモンを守るためだったり、ただ単にじゃれているだけだったり・・・・・・ただの一度も、相手を正面から打ち据えようとはしなかった。

優しいから。
相手を本気で傷つけてしまうのが怖いから。
みんなで楽しく暮らしていたいと切に願っているから。
怒りに身を任せたのは、それを突き崩されたのだと思ってしまったから。

だが、この激情はそれと決定的に違った。敵に傷をつけられたことによる闘争本能の着火とは異なるものだ。つまりこれは――人間でいう愛か、母性本能から生まれ(いずる)もの。いや、もう愛でいいだろう。オウカはゴエモンを愛しているから、恋する乙女は無敵なのだ。

「・・・・・・すごいな。大切な人がいれば、こんなにも強くなれるものなのか」

もはや剣の柄を握るだけでも精一杯になりつつあったジェーンは感銘を受けたように呟いた。

「ニヒロ、これはもう駄目だ。大人しく負けよう」
『ママ、ママが喧嘩を始めたのは何で?』
「それは、私の苦労も知ってもらいたかったし・・・あいつ、人の気も知らないでいつもぽけっとしてるから、ちょっとは考えて欲しかったんだ」
『パパにその思いは伝わった?』
「だからそれをオウカが邪魔してるんだろ。考えてみれば、暴力に訴えるのも間違ってるような気がするし・・・」
『ママ、パパに言葉で説明できるの?口下手だから無理だと思うなー』
「こら、そこは嘘でも『ママにならできる』と言え。お世辞のへたな奴」

もう次の瞬間にはすべてのバリアエネルギーを斬滅させようとするIS究極の一刀が振るわれんとするのに、2人の会話はどこまでもいつも通りだった。だが――

『オウカお姉ちゃんの事凄いってママは言ったけど、それじゃ臨海学校で戦ったママは凄くなかったの?』
「結果的に任務失敗したし」
『でもママは命令違反に近い事をしてまで、あの時まだ目覚めていなかった感情を奮い立たせた。私はそれは凄いことだと思う』
「生まれたてのくせに一丁前な同情するんじゃないよ」
『むう、卑屈。・・・ママの本気ってそんなものだったの?オウカお姉ちゃんがダメって言えばすごすご引き下がるのがママの本気な訳?』
「・・・・・・ッ」

実際にはわずか0,1秒にも満たない時間の間で行われている、一つの体に宿る2つの魂の意思疎通。そのわずかな時間の間にジェーンの精神は驚き、沈み、悔しがり、そして次の感情に移る。
感情を殺していた頃のジェーンならば考えられないほどの不定形な精神状態。エージェントとしての適正は明らかに過去に劣るであろうそれはしかし、一つのきっかけで驚くべき爆発力を抱く「新たな可能性」をその身に宿していた。

「そんな訳あるか、諦めるのは止めだ!そりゃオウカはみんな楽しけりゃそれが幸せかもしれんが・・・そうやってふにゃふにゃしてるからゴエモンがああなんだろう!?」
『いや知らないけど・・・』
「私だってゴエモンの事いろいろ考えて幸せにしたいって思ってるからこんな柄じゃないことしてるんだ!幸せなのとだらしないのは違うんだぞお前!!」

お前らなまじ戦闘力持ってるくせに、普段は人畜無害な連中なんだ。荒事は私たちに任せればいいんだ。それで平時の時にお前の隣にいれればそれでいいんだ。なのに荒事が起きると勝手に二人で抜け出して・・・

「そうだ、そういうところが良くないからムカつくんだ!いつもいつもオウカばかり頼りやがって・・・・・・私にも世話焼かせろぉぉぉぉーーーーーーッ!!!」

ニヒロ、制限解除(リミットブレイク)。彼女の身体から、全ての闇を振り払いような極光が溢れ出た。


――『 白 狼 』発動――


ISコアには、シールドとは違うISエネルギーとでも呼ぶべき力が存在する。シールドバリアが消失して活動限界を迎えててもISの全機能が停止しないのは、そのコアが自家発生させるエネルギーが循環しているからだ。
シールドエネルギーが移動、攻撃、バリア等の力の源ならば、コアエネルギーは量子化や伝達、そしてあまり知られてはいないが二次・三次移行時にエネルギーが回復するのもこのコアエネルギーの余剰エネルギーだ。

ISのシールドエネルギーはあくまで電力を増幅、変換してコアエネルギーの代替としているに過ぎないのに対し、コアエネルギーの生産能力は理論上は無限大。だが、それを開放すれば溢れ出るエネルギーはパイロットを蝕むだろう。
だが、それに耐えられるのがウルーヴヘジンであるジェーンだった。超人的なその肉体を以て爆発的なコアエネルギーをIS内で循環させる、それによって生み出される常識はずれの速度、出力、馬力。エネルギーの放出によって髪の毛だけでなく全身が白く輝き、暴走に近しいエネルギーを拳に乗せて相手に食いかかるその姿こそが「白狼」というモードだ。
長時間使用はISフレームとジェーンのリンクそのものが耐えられなくなる可能性があるために、その維持には生み出されるエネルギーの2倍に匹敵する膨大な維持エネルギーで抑え込まなければいけない。そのために最悪の燃費だったそれは、最後の切り札と呼ぶにふさわしい。

そしてその彼女がISと同位の存在になったことで、いままでニヒロとジェーンがバラバラに展開していた力が一つに集約された。白狼の枷は解き放たれ、その力はジェーンの意思と体力が続く限り制限を取り払われた。


「 ガ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ッ!!!」


その姿を見たものは彼女を何と言ったろうか。

神話の霊獣。

救世の天使。

或いはその畏ろしさ、神そのものとでも呼ぶべきか。

桜色に染まった空間を全て押し返すように真っ白に染まった、最早その身体が肉なのか霊なのかも分からないほどに美しいその身体の中で、嘗て「越界の瞳」と呼ばれていた――そして当の昔にそれを超えていた、黄金の瞳だけが爛々と意志を湛えていた。

獣の力。
人の知恵。
そして神聖。

空を飛び、人ならざる力を振るい、神々しいまでの光を放つそれは――

――まるで創造神のようではないか。



「決着をつけるぞ、オウカ。私はゴエモンを叱る」
「これで終わりにしよう、ジェーン。ゴエモンは私が護るの」




二人の女神がいた。


一人の女神は、その慈悲を以てして人を包み、人を護る剣を掲げた。

一人の女神は、女神に甘えて前へ進もうとしない人の目を覚ますため、その手を掲げた。


ただ、人のために――女神は、2つの力をぶつけあった。


そして――その力の激突は、余りにも激しく世界を揺さぶり、壁も、大地も、客席さえも粉微塵に打ち砕いた。そして――




「貴様ら今すぐ降りてこんかこの・・・・・・大おおおおおおおおおおお馬者共がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああああッ!!!」



荒涼たる大地へと変貌したアリーナに気付いた3人目の女神が落とした雷によって収束した。
  
 

 
後書き
生徒に振り回されて必死になる織斑先生マジかわいい。 
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