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永遠の空~失色の君~

作者:tubaki7
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EPISODE31 蒼と白


作戦本部の設けられている旅館から南東に約数百キロ地点。高速戦闘を得意とするISであればそう時間を有さない距離に複数の軌跡が明けきらぬ夜空に舞っていた。時折銃弾を放った時に見える火花がロケット花火のように躍り、白から撃たれた光が海を穿つ。日本海域内で繰り広げられている戦闘は激化の一途をたどり各国の代表候補生達は対峙した機体の評価を総してこうつける。


化け物、と。


エネルギーの底が知れない。あの翼と音速を越えんばかりのスピードと広域殲滅攻撃。流石は軍用兵器に開発されただけはあると同じ軍に籍を置いているラウラは舌を巻き高い評価をする。あれが有人機でなければ是非ともこの場で破壊したいものだと懸命に砲撃を躱しながら思考する。此奴の攻略法がまるでない。与えたダメージといえば初撃のアプローチのみ。セカンドシフトを阻止しただけ儲けものものだったと思った方がいいのか。

歌うような、嘆くような、叫ぶような音が海上に広く木霊する。悲鳴、怒号、捉え方はいくらでもあろうその声は唯一の警告。ラウラが怒鳴り声に近い指示を飛ばし近接戦を繰り広げていた僚機二機も全速離脱する。シールドとAICを展開。自分の集中力の限界まで範囲を広げて仲間を護ろうと立つ。エネルギーも多くはない。これを防ぎきればよくて飛行可能状態、悪ければエネルギーが尽きて墜落も視野に入れながらラウラはそれでも死の鐘が鳴り響く中立つ。


運命を同じくした彼の為に、友を守ると誓って。


ラウラ・ボーデヴィッヒは不器用な少女だ。何をしていいかわからずに悩むことなど日常茶飯事。この学園にきてからはそれが常と言っても過言ではない。だが、今の彼女に迷いはない。背に守るものがあるなら、彼女はこの中の誰よりも強い。

広げられた障壁がビームを受け止める。慣性の法則すら捻じ曲げるほどの力は通常の何倍もの処理範囲を展開し僚機を攻撃から守る。が、それも彼女一人で処理しきれるほどの範囲でしか及ばない。所々撃ち漏らしや意識が行き届かない場所はもう突破され、水面に沈むか、機体を翳めて消える。ダメージは少ないものの、それも喰らい続ければ危ない。

やがて攻撃が止んだことに展開をやめると切れた集中力のせいか、フラッと視界が歪む。意識を手放しかけたラウラをカーキイエローの機体が受け止めた。


「すまない」

「言いっこなしだよラウラ。それより、行ける?」

「もちろんだ。これしきのことで倒れるほど柔ではない」


強がりだ。そう確信しているからこそシャルロットは彼女に付き添うように飛行する。

 怒号が二つ、刃の軌跡が4つ刻まれる。鈴と箒の刃が福音を捉えようと動くが綺麗に捌かれる為かすることすらしない。それならばと鈴が距離をを取る。発射に必要なエネルギーを浮遊している砲台に溜め、箒が離れたと同時に発射に指示を出す、脳内の電気信号をキャッチしたシステムがトリガーをひき、見えない弾丸を発射。箒の両脇を通り過ぎ、敵機を撃ち飛ばす。バランスを崩した機体が気流に煽られてクルクルと複雑に回転しながら落ちていくのを見逃すまいと箒が二対の刀を手に急降下。海面すれすれでバランスを驚異的な体幹で立て直した福音をみて柄にもなく「マジか」と呟く。ほぼ人間の常識を無視したかのような動きは身近にそれをさも当たり前にやる人物がいるので驚きはしないつもりだったがやはりいつみてもこの光景は異常だ、と箒は思う。

やがてエンカウントして紅と白が海面すれすれを飛びながら力を拮抗させて上昇。組みついて離れない箒に福音が出した決断は零距離での殲滅砲撃。大ダメージ覚悟の上での攻撃の為翼の一部を広げ光が満ちていくのを見ても尚食いついて離さない。


「世話がやけますわね!」

「さらせない!」


レモンイエローのリヴァイブとブルーティアーズの精密射撃が福音の攻撃を阻止。射抜かれた部分が黒い煙を上げるのを見て箒はニヤリと口角を釣り上げると同時に渾身の力を込めて刀を振るう。翼の一対を切り落とすことに成功し、これが限界かと離れようと蹴りを入れる。

 しかし、その足が掴まれた。嫌な悪寒が躰を駆ける。

歌うような、叫ぶような、怒号のような音が鳴る。腕の砲門に光が満る。


援護


無理だ


回避



間に合わない



死―――――その言葉が頭をよぎった次の瞬間。その腕を一筋の光が貫いた。セシリアよりも正確に、モニカよりも鋭く射抜いた矢はこの中の誰の物でもない。援軍かと思った次の瞬間には目の前を今度は蒼い風が駆け抜け福音を蹴り飛ばす。再びバランスを崩し落ちていく福音はまた海面すれすれで体勢を立て直して此方を見上げてくる。

 現れたのは光の粒子を散らしながら目の前に浮かぶ二枚の蒼い光の翼。白と蒼のコントラストに特徴的な全身装甲と額から伸びる角のようなアンテナ。腕から伸びる爪のようなパーツやグリップしている二丁の形の異なる銃など違うところはあるものの、全体的なフォルムは見間違うはずもないシルエット。

おそらく、学年最強と言って過言ではないその実力を持つ彼は、外見からは想像もつかない位優しい声色で此方に声をかける。


『箒、大丈夫?』

「ライ・・・・?」


よく知った声に箒は名前を呼ぶ。振り返りはしないが頷く動作をみて安堵し笑みがこぼれる。


「ライさん、御体の方はよろしいんですの?」


セシリアが寄ってくる。それに大丈夫と返して此方に再び砲門を向けてくる福音を見て二人の前へと出る。互いに翼を展開させ、放ったのは同じ殲滅砲撃。翼から散る蒼と銀の光が空中でぶつかり合って美しい軌跡を彩る。


「あの攻撃を、全て防ぎきっている・・・・」


驚愕の声をあげたのは鈴だと判断できるあたりやっぱり見慣れているなと思う。こんな芸当ができるのは多分この少年しかいないと違和感なく見る。ホントに凄い。もはやこの言葉しか出てこない。

攻撃が通らないと見るや否や福音は近接戦を仕掛けてくる。遠距離は互角だと判断したのだろう。そう判断させたということは、それほどまでにライの実力が高いということを意味していた。銃を粒子化して格納し今度はマウントしてある剣を抜く。掌から伸びるブレードを受けながらさらに高度を上げて切り結ぶ。超高振動で震える赤い刃と高密度のエネルギーでできた刃が空中で幾度となく火花を散らしながら高速戦闘を繰り広げる。それを雲の隙間から時々除くその光景を見上げながらモニカは思う。


次元が違う、と。



〖エネルギーが不安定だ。長期戦になればこちらが不利になる〗

『なら、その前に機能停止させるまでだ』


C.C.の警告にライはMVSを振るったあと一度フェイントを入れて蹴り飛ばす。剣をマウントした後再び銃を展開。スーパーヴァリスとなった二丁のうち左で握っている方のグリップを収納し、右で握る銃身を展開させての二つを連結させる。スナイパーモードになったことでハイパーセンサの照準も専用のもの切り替わる。砲門にエネルギーが溜まっていき・・・・・ロックしたことを意味する赤い表示が出ると同時に引き金を引く。長く伸びる緑の光がもう一枚の福音の翼を射抜き、爆発させた。立ち込めていた雲をも吹き飛ばす一筋の光は福音を衝撃で海中へと叩き込んだ。

ノーマルモードへと切り替え、確認の為に高度を下げる。


『・・・・さすがにやりすぎたかな?』

〖男はこれくらいやらないと女に舐められるぞ〗


程度と意味が違うとツッコミを入れて箒らと合流。活動停止を告げないC.C.に警戒心を解かないまま海面をじっと見つめる。


「・・・・これ、終わったの?」

「わかんない。でも、なんかこう、」

「はい。・・・・狂気が、消えていません」


鈴、シャルロット、モニカの順で言葉を発する。


〖ッ、全員散開しろ!〗

『みんな、離れて!』


C.C.の警告に瞬時に反応したライが指示を飛ばす。含まれる危険度の高さを身で感知した彼女達はその場から離脱。直後、海面が渦を巻いて“割れた”。

膝を抱えるように丸く繭のような膜につつまれていた福音が蛹から羽化する蝶のように出で翼を広げる。切り落としたはずの翼は再生され、その脅威を増している。それが何を意味するかはC.C.の警告と同時に理解する。


〖マズイぞ、セカンドシフトだ!〗


福音が飛翔する。再び翼を広げ、歓喜するように歌い、踊った。翼が舞った軌跡から落ちるのは破壊の羽。以前よりもその威力と範囲を広げ彼らを襲う。

必死に機体を捌くライ。聞こえてくる爆音と悲鳴に心がざわつく。脳裏によぎるのは、見たことある光景。


『させるかァァァァァァァ!!!』


回避をやめライが取った行動は反撃。翼を、両の銃を、すべてを空に向けて放つ。弾幕を張り、なんとかして攻撃を防ごうとするも一枚相手が上手だった。撃ち漏らしが、広すぎる範囲が味方の機体のダメージを増やしていく。上がってくる報告を聞きながら、ライは唇を噛む。


護れない



繰り返す



同じ過ちを



何度も



何度も



・・・・認めない


こんな結末を、認めない。


だから


どんな代償を払っても構わない。せめて、彼女達だけは・・・・!


そう願うかのようなライの想いに、天からの叫びが答える。


「仲間は…やらせねえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!」


ドン、という音が形容するような衝撃が空中に拡散する。猛烈な突撃を頭上から受けたかのように福音が海面に落下した。

見上げれば、白の翼をより雄々しくたたえる騎士の姿。左腕の形だけでなく全体的なフォルムを変えて空に坐すその姿は海面から顔を少し出し始めた太陽を反射して光る。黒の髪に赤銅の瞳が同じ目線まで降りてくる。惨状は・・・・そこまで酷くはない。皆が皆、機体を展開したまま空中にいるのを見て彼は間に合ったと安堵の笑顔を湛える。

溜まらず少女が飛び出した。


「一夏、一夏ぁ!」


飛びついてきた少女を受け止め少年は心からの笑みを浮かべる。涙で歪む顔を苦笑まじりに眺め、何か物足りないと粒子化していたものを取り出す。


今宵は7月7日。織斑一夏にとっては特別な日でもあったからだ。


「遅くなって悪い。お詫びってわけじゃないけど・・・・これ」

「・・・・リボン?」

「誕生日おめでとう、箒。こんなときで悪いけどさ」


ばつが悪いと笑う一夏に箒は満面の笑みで返したあと、ハッとなって頬を機体よりも明るい紅に染めてそっぽを向く。素直じゃないなといつもの光景を見せてくれる幼馴染から身を離すと、その後ろにいる蒼いもう一人の騎士に目を向ける。


「・・・・行けるか?」


訊う言葉はただ一言。でも、返す言葉はいらない。少年の言葉に彼もまた頷いて返す。


 まだ、戦える。まだ飛べる。この空へと、翼を広げて二人の騎士が吠えた。海面から出でる天使を思わせる姿を、真っ向から見据えて。


銀と蒼と白が、明けてゆく空を駆けた。  
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