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雲は遠くて

作者:いっぺい
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50章 美結と真央と涼太、CMに出演

50章 美結と真央と涼太、CMに出演

 8月16日、土曜日、2時30分を過ぎたころ。曇り空である。

 下北沢駅北口から歩いて約3分、大きな赤いハイヒールが
店の前に飾ってある、ヘイト・アンド・アシュバリー (HAIGHT&ASHBURY)へ、
川口信也と妹の美結(みゆ)、大沢詩織、清原美樹、松下陽斗、
小川真央、沢口涼太、の7人で行くところである。

  ヘイト・アンド・アシュバリーは、古着屋の超老舗で、プロのバイヤーがアメリカや
ヨーロッパを中心に、世界中から集めた貴重なアイテム(服の種類)が(そろ)っている。
取扱っているジャンルも幅広く、各コーナーは、MEN'S、LADY'S、ANTIQUEに分かれていた。

 良質で手頃なヴィンテージ・ファッションから、本物のアンティークまで揃っているので、
ヘイト・アンド・アシュバリーには、芸能界やファッション界にもファンも多く、
全国からやって来るファンもいる。

 「美結ちゃん、真央ちゃん、今度のテレビのCMのこと、
わたし、すごく楽しみにしているのよ!」

 美樹は、1つ年下の美結と、同じ歳の真央と、3人で並んで歩きながら、
そういって微笑む。

 「うん。エタナールのイメージ・キャラクターにしてくれたのよ。
副社長の新井竜太郎さんたちが・・・・。わたしと、真央ちゃんと、
涼太さんの3人が、これからのエタナールのイメージ・キャラクター
なんだって。わたしたち3人って、まだ新人で、駆け出しの若手だけど、
そんな新鮮なイメージが、エタナールの新しいイメージ・キャラクター
相応(ふさわ)しいっていってくれてるの。ね、真央さん!」

 美結は、そういうと、美樹と真央に微笑んだ。

「最近よくある、物語仕立(じた)てといいますか、ストーリーのあるCM
なんですよ。おれは正義感が強くて、人情に(あつ)いけど、
そそっかしくって、失敗ばかりしているウエイターや売り子をやっている
店員の役なんです。美結ちゃんは、敏腕(びんわん)なエタナールの社員で、
真央ちゃんは、おれの店長だもんね。あっはははっ」

 美樹と美結と真央の(うし)ろを歩く、身長184センチの沢口涼太は、
(さわ)やかな笑顔でわらった。涼太は松下陽斗と歩いていて、
音楽や芸能界の話で盛り上がっていた。

 「涼太さんは若い女の子に圧倒的な人気があるから、このCMは、
大ヒット間違いないですよ」

 1番前を歩いている川口信也がふり返ってそういった。信也の横には
大沢詩織がいる。

・・・・竜太郎さん、真央ちゃんを、エタナールの新しいイメージ・キャラクター
に起用したものだから、仲良くいっていた秋川麻由美(まゆみ)ちゃんと
ケンカしちゃったらしいからな。女性のヤキモチって、コワいからなぁ。
そういえば、竜さん、おれにこんなことを聞いたっけ・・・・

 ふと、信也は、()きつけの渋谷のバーでの、先日の竜太郎との会話を思い出す。

「しんちゃんは、前に、つきあっていた、清原美樹ちゃんには、今では、恋心
とでもいうのかな、そんな恋愛感情は、自然と消えちゃったのかな?」

 竜太郎からそんなことを聞かれた信也は、思わず声を出してわらった。

 竜太郎は1982年生まれの31歳。信也は1990生まれの24歳。
なぜか話の合う、酒飲み友だちの二人には、歳の差など関係なかった。

「おれは、美樹ちゃんのことは、本当に、好きだったんですよ。
いまでも好きかと聞かれたら、詩織ちゃんのことがあるから、
はっきりと言えないし、うまく言えませんけれどね。まあ、
美樹ちゃんは、おれに、愛というもんが、どんなものかを
教えてくれたっていうことは、確かな気がします。
男は女でもって成長するもんだって、あの文芸評論家の
小林秀雄も言ってますよね。おれも美樹ちゃんとの恋愛で、
かなり成長したんだって、実感しています。まあ、結果的には、
フラれたわけですけどね。あっはっは」

「なるほど・・・・。恋愛って、楽しかったり、(つら)かったりの、
一種の修行(しゅぎょう)のようなところがあるよね。あっはっは。
おれはね、しんちゃん。お互いが、本当に好きならば、
恋愛することは、基本的に自由だと思っているんだけどね。
だから、おれみたいな、いわゆる恋愛至上主義の考えの男は、
独身でいたほうがいいって思っているのさ」

「それはそれで、いいんじゃないですか。竜さんはモテるんだし」

「いやいや、しんちゃんほど、おれはモテないよ」

 ふたりは声を出してわらった。

「・・・・恋愛って、竜さん、基本的に、1対1、じゃないですか。
相手がNO(ノー)といえば、そこまでですもんね。誰かを傷つけてまで、
するもんじゃないでしょう。ストーカーとか、人間として最低ですよね。
でも、そこが、むずかしいところですよね。竜さんの考え方もよくわかるんですよ。
竜さんと同じように、おれも恋愛至上主義かもしれないんですよ。
1度誰かを好きになったという事実は、消し去ることはできませんからね。
過去に好きになったヒトのことを、あえて、打ち消すこともないと思います。
かといって、現実的には、何人もの女性と付き合うことは不可能なだけですよね」

「何が大事かって、恋愛に耽っているばかりじゃダメなのは当たり前だよね。
やっぱり、おれたち男には、仕事や趣味が1番なのかな?しんちゃん!」

「そんなとこじゃないですか。竜さん!欲望を恋愛以外に向けるとかですかね!」

 ふたりは、意気投合したように、目を合わせると、声を出してわらった。

 その()きつけのバーとは、JR渋谷駅東口から歩いて3分の、
Bar 石の(いしのはな)だった。

 客席数は19席の、カウンターの落ち着いた雰囲気のお店である。
種類豊富なお酒、オリジナルが評判のバーで、オーナーの
バーテンダーは、技能競技会で総合優勝もした名人であった。

 そんな会話をしたその夜は、ふたりは、オリジナル・カクテルの
クラウディアを楽しんだ。クラウディアは、パイナップルジュースと
キャラメルシロップを加えたマティーニである。

≪つづく≫ --- 50章 おわり --- 
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