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雲は遠くて

作者:いっぺい
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44章  愛と酒と歌の日々

44章 愛と酒と歌の日々

 6月28日の土曜日の午後3時を過ぎたころ。
空はどんよりと灰色に曇っていた。

 ヴォーン、ヴォーン、フォン、フォーンと、軽快な金属音を
路上や空気中に響かせて、川口信也の愛車のイタリアン・レッドの
ホンダ・CB400・スーパー・フォアが、下北沢のマンションの地下の
駐車場に入って来る。

 バイクの後部シートには、その細い両腕を、しっかりと信也にまわして、
シルバーのジェットヘルメもかわいい大沢詩織が乗っている。

 ある日、信也はよく腹筋を鍛えているから、その(かた)い感触に、
詩織が、「しんちゃんのお腹って、金属みたいに硬い」といったら、
「ははは、おれ、半分、ロボットのサイボーグなんだ、実は」
といって、信也がわらった。

「いやだ、それじゃ、しんちゃんは、009みたいなサイボーグ戦士なのね?」
詩織はそういうと、「まあね、戦士なら、かっこいいんだけどね」といって信也は
()れた。そして、ふたりは声を出して明るくわらった。

 信也のマンションの部屋やキッチンやリビングは、信也の妹の美結が
掃除上手なものだから、いつも綺麗(きれい)にしてある。

「しんちゃん、このウールのカーペット、最高に気持ちいいわ!」

 9.5畳のリビングの、気楽に寝転がれる床座(とこざ)の、
ひのきのローリビングテーブル(座卓)で、信也と向かい合う詩織は、
そういって、微笑(ほほえ)む。

「ははは。ありがと、詩織ちゃん。買うときは、ちょっと高かったけれどね。
夏は涼しく、冬は暖かいっていうのを買ったんだぁ」

「そうなんだ。いいものはいいわよね。しんちゃんも、美結さんが来てくれたから、
お部屋はいつもきれいでしょう、お食事はおいしいでしょう。
だから、わたしも安心しているし、うれしいわ。わたしにとっても、美結さんは、
1つ上のお姉さんなんだけど、わたしなんかより、10倍くらい、しっかりしていてる感じ。
もう、わたしの先生みたいよ。だから、美結さんのことはとても尊敬しているの」

「詩織ちゃんと美結が、仲いいのが、おれとしては、何よりだよ。今夜も、みんなで、
楽しいひとときを過ごそうね。美結も来るから」

「うん、楽しみだわ。わたしもやっとお酒が飲めるんだもの」

 大沢詩織は、1994年6月3日生まれで20歳になったばかり。
早瀬田(わせだ)大学、文化構想学部の2年生である。

 今夜は、下北沢の料理も評判のカフェバーで、クラッシュ・ビートと
グレイス・ガールズのみんななどの気の合う仲間たちと楽しむことになっている。
エタナールの副社長の新井竜太郎やその弟の幸平も参加する。

「そうそう、約束していた、おれの新しい歌、詩織ちゃんに聴いてもらおうかな」

「うん、聴かせて!うれしいわ。わたしが、1番最初のリスナーよね。
タイトルも詩の内容も、すごい感じよね。しんちゃんらしいけど」

 詩織は、目を輝かせて、かわいらしく微笑む。

「あっはは。まあね。おれの生活をそのまま歌にしちゃった感じだからね。
あはは。じゃあ、まあ、聴いてね」

 そういって、信也はちょっと照れながら、わらうと、ギブソンの
アコースティック・ギターを手にする。

 信也は、カポタストをギターの3フレットに装着すると、手書きの簡単な
譜面を見ながら、1小節を16に分割したリズムの16ビートの、
軽快で(さわ)やかなイントロで、透明感のある声で歌い始めた。

愛と酒と歌の日々   作詞作曲 川口信也

インターネットのせいなのか 世の中 グローバル化
世界中が 競争相手のようで (いそが)しさ MAX(マックス) 
環境破壊も 貧困も 戦争も 地球的問題で
頭の中も グローバルにしないと ダメみたい

仕事終われば 気の合う仲間と 気のむくままに 
馴染(なじみ)の店で 酒を飲めば 上機嫌(じょうきげん)
楽しいね 気持ちいいよね 明日への英気だね
アルちゅう(中毒)や 糖尿にも 注意するけどね

Ah,Days of love and sake and songs.
(あぁ、愛と酒と歌の日々よ)
Oh,Baby.I do not forget to protect you.
(おぉ、ベイビー、きみを 守ることを 忘れない)

かわいいあの()がくれた 秘密の愛のプレゼント
世間の冷たい風に その愛も 吹き飛ばされそう
あの()の愛のプレゼント なしじゃ 生きてはゆけないよ 
だから しっかり守って生きるのさ 秘密の愛のプレゼント

あぁぁ この人生 100年足()らずということは
花の短い生涯(しょうがい)と あまり 変わらない感じ
でも (うれ)うことなく 楽しく酒を飲める 幸せよ!
あなたにも あの娘にも みんなにも いつも幸多かれ!

Ah,Days of love and sake and songs.
(あぁ、愛と酒と歌の日々よ)
Oh,Baby.I do not forget to protect you.
(おぉ、ベイビー、きみを 守ることを 忘れない)

歌作って 歌えば 楽しいことを 教えてくれたのは
ボブ・ディランだったか? ビートルズだったのか? 
でもそうだよね 誰でも アーティスト(芸術家)になれる
そんな時代が来たんだよ!その気にさえなればね!

誰かが言ってるよ!世界中の すべての人たちが
アート(芸術)を楽しんだり アーティスト(芸術家)になれば
環境破壊も 貧困も 戦争も なくなるだろうってね
なぜなら アート(芸術)って 愛について考えてみることだから

Ah,Days of love and sake and songs.
(あぁ、愛と酒と歌の日々よ)
Oh,Baby.I do not forget to protect you.
(おぉ、ベイビー、きみを 守ることを 忘れない)

アートの中でも 歌が大好きな おれたちさ
イカした ロックの ビートや リズムや ハーモニー
憂鬱(ゆううつ)も 悲しいことも 吹き飛んでしまうのさ
平和のために 勇気ある戦士にだってなれそうなのさ!

「人って 進歩してるのかな?」 って 誰でも考えることあるよね? 
みんなが アートを楽しんだり アーティストになったりすれば
人は もっと 愛や(やさ)しさに (あふ)れるのかもしれない
どうか そんな愛や優しさで 世界が いっぱいになりますように

Ah,Days of love and sake and songs.
(あぁ、愛と酒と歌の日々よ)
Oh,Baby.I do not forget to protect you.
(おぉ、ベイビー、きみを 守ることを 忘れない)

≪つづく≫ ---44章 おわり---  
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