『自分:第1章』

寮に戻って､大好きな寮母さん､お母さん､恵ちゃんが心配してくれてた。
恵ちゃんは知ってたから後で色々聞かしてやぁ♪って嬉しそうやった。
他のおばちゃんらは､若い子は輪を乱すとか規則を守らんとか､口々に文句言われた。


みんな､逃げてきたり､精神疾患持ってたり...奇っ怪な行動取る人も発狂する人も居た。
それぞれの事情や病気は知らん。
聞いたらあかんのが暗黙のルールらしい。

県外から逃げてきてる人が殆ど。

１人､零那に妙に懐いてくる人が居て､演歌歌手の人と同姓同名で､その人の歌が上手いから聴いてって､やたらひつこい。


いろんな人が居た。
精神疾患で対応困難な人。
やたら物知りで賢い人。
プロ並みに化粧が巧い人。
凄く繊細で被害妄想激しい人。
常に何かに怯えてる人。
他人とは一切喋らん人。
常に笑ってる人。
暇さえあれば般若心経唱えてる人。

いろんな人が居て､いろんな対応を義務付けられてる感じ。

最初は怖かった。
でも､慣れって怖い。


適当にあしらったり出来るようになった。
此処にいる人は他人に構ってる余裕は無いはず。
無理に入所者同士関わり合う必要も無い。
冷たいけど大人。
児童施設とは違う。

無駄に構って自分の自立に支障をきたすくらいなら構うなって感じ。
差別とかゆう感情は無くても出て行かなあかん人にとっては､のんびり此処に好きなだけ居れる人をまともに相手する暇は無い。
職員にも言われた。

『いろんな人居るけど基本放っといたらいい。職員の仕事やから。あなたはあなたのすべき事をしなさい。』

勿論､イジメや喧嘩をふっかけるようなことはせん。
でも､精神疾患者の中には､被害妄想だけで突っかかってくる人も居た。
日本語が通じんから､たちが悪い。
何もしてない､何も言ってないのに。

零那も保護されたときは精神異常者やったし気持ちは解らんわけでもない。
叫ぶし狂うし死にたくなる。
殺して欲しくもなる。
頭がおかしくなる感覚は解る。

だからこそ､自分のことしか考えれんのに､そぉゆう人達をないがしろにせなあかん状況に耐えれんかった。

職員にそぉゆう気持ちを話した。
でも､どぉする事も出来んって言われた。

『同じ建物内､自分が入所する時､児相おった時とか経歴も話も聞いてるやろ？そん時は人格障害酷かったし解るんよ。することあるけんって｢はいはい後で｣って､もう嫌。幼児還りなら幼児として接してあげたい。甘やかしたら？』


『あなたの気持ちは解った。そんな他人のことを考えてくれる人は今迄おらんかった。私がそこまで解ってなかったわ。何か考えよ。待ってて。』


翌朝早くにその職員は来た。
募集項目で学歴不問の会社をチェックしてたら､目の前に１枚の紙が。

日中､ﾎｰﾙを使える時間帯にそれぞれがやりたいことを出来る範囲でする。
そのとき､零那は職探し。
でも､合間にホールで相手してあげても良いって。
寮に居る時間も自分が許せる限りは良いって。

わざわざそんなん言わんでも普通に相手したらええやんって思うよね､普通。

でも､一概に言えん。
場所や地域､方針もそれぞれ。
精神疾患者を一切扱わん施設もある。
それぞれが違う。
児童施設とは違う意味で順応するのは本当に難しい。


ちゃんとまともに接してると､心なしか､まともになってる気がした。
此の人は､もしかしたら周りの環境と人間さえ理解してくれたら良くなるんやないかな？

以前と比べて明らかに正常で居れる時間が増えたように思う。
特に薬が変わったことも無さそうやし。
発狂もせんなった。
躁鬱やけど､沈む時間も短くなった。

職員に『診断は初めだけで後は薬だけ貰いに職員が行ってる？』って聞いた。

その通りやった。

『もっかい行ってみたら？良くなってる思うで。前と全然違う。』

『そやね､行ってみよか。良くなるなら此処を出て支援はしつつ自立をして貰いたいし...』


自立できる能力があるなら､此処に閉じこめとくより明らかに可能性はある。
零那は其れが正しいと思ってた。

職員と､その人が病院から帰ってくるまでは...