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オルキス

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第二章


第二章

「あれっ」
 自分の気持ちに。楽しさが戻ってきていたのだ。
「何でだろ、楽しい」
 楽しさを思い出していた。それが嬉しかった。
 しかしそれがどうしてかはよくわからなかった。不思議なことだと思った。
「彼女を見て話をしただけなのに。どうしてだろう」
 考えてみるがわからない。そのまま家に帰ってまた考えたがそれでもわからなかった。そうしてその日はずっと答えが出なかった。次の日彼女に会うまでもそれは同じだった。
 次の日同じ場所同じ時間に少女を出会った。彼女は相変わらず清らかに笑っていた。
「こんにちは」
「うん、こんにちは」
 オルキスもにこやかに笑って彼女に笑みを返した。すると今まで悩んでいたのが嘘のように消え去り楽しい気持ちになった。不思議なことに。
「約束どおり来てくれたんだ」
「はい、それが何か」
「あっ、いや別に」
 その言葉には答えない。答えられなかった。答えられない理由も彼にはよくわからなかった。自分自身のことであるのにだ。
「何もないよ」
「そうですか」
「うん。それでね」
 オルキスはそれを置いて話を続けた。
「これから何して遊ぼうか」
「私は何でもいいです」
 少女はこう答えた。やはりあの清らかな笑みで。
「オルキス様が望まれることで」
「それでいいんだね?」
「はい」
 そうオルキスに述べた。
「何でも」
「それじゃあさ」
 オルキスは彼女のその言葉を受けて言った。
「この森の中を歩かないかい?」
「森の中をですか」
「うん、そうして二人で色々とおしゃべりをしようよ」
 森の中を見回して言う。森の中は静かで小鳥のさえずりや木々が風に揺れる音が聞こえるだけである。のどかでもあり実に落ち着く感じであった。
「それじゃ駄目かな」
「いえ」
 少女はオルキスのその申し出に首を横に振った。ゆっくりと。
「ではそれで」
「悪いね、何か静かなので」
「静かなのもいいですよ」
 少女の笑みがまたオルキスの心に入る。すると何か身体が急に熱くなった。
「あれっ」
 オルキスにもそれがわかる。その熱さでとても耐えられなくなった。
「何だろう、この感触」
 その感触にどうにも困ってしまう。それは少女にもわかった。
「あの、オルキス様」
「う、うん」
「お顔が」 
 そう声をかけてきた。
「赤いですけれど」
「赤いかな」
 それを言われてはっと気付く。
「そんなに」
「はい。どうされたんですか」
「いや、何もないけれど」
 そう言葉を返す。だがここでもどうにもいられない気持ちになるのだった。
「別に」
「何もないですか?」
「うん、だからさ」
 慌てた感じで話を進ませた。
「行こう。一緒に」
「あっ、はい」
 少女はオルキスの言葉に頷いた。そうしてふわりとした感じで彼の横に来たのであった。
「それじゃあ」
「うん」
 こうして二人でおしゃべりをしながら森の中を歩くことになった。それはこの日だけではなく次の日もそのまた次の日も続いた。その中で彼は楽しみを思い出した。そうしてそれが日増しに増していくのも心の中で深く感じだしていたのであった。
 その気持ちが何なのかはわからない。だがそれを抑えきれなくなってきているのは自分でもわかっていた。
「何だろう」
 自分自身の心を見て考える。
「この気持ち。彼女とずっと一緒にいたい」
 そしていつもこう思うのだった。
「一緒にいたい。そうして」
 それからこうも思うのも常だった。
「楽しく過ごしたい」
 常にそう思うようになった。それが抑えきれなくなっていき遂に彼は無意識のうちに手許にある花を摘み取った。
 薄紫の花だった。見たこともない形をしていてそれがやけに派手に見える。彼はその花を少女に贈るつもりだった。そうせずにはいられなかった。
「この花を彼女に」
 決めたらもう後は会うだけだった。いつもの約束の待ち合わせ場所に向かう。その山羊の脚で駆けると驚く程速かった。瞬く間に辿り着くとそこにはもうあの少女がいた。
 
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