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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross world~
  cross world:交差

意味不明な言語が大気中に垂れ流される。

記号とも、呪文とも取れるその言語は絶えず鼓膜を不気味に揺さぶってくる。

「な、何でしょう!?」

「気でも狂ったか?」

思い思いの、大変率直な意見を述べる少年と女性。

しかし、カグラの背におわれる真っ白な少女は、表情をいくらか引き締め、流れる言葉を真剣に吟味する。

「……………何か一定の規則性を感じるんだよ」

「逆算できそうですか?マイ」

「う~ん、雑音(ノイズ)が酷くて。たぶんソレイユがボコりまくったせいかも」

「………おい、"わたし"のせいかよ」

思わぬ振りにボヤく少年。

完全にイっちゃった系の文言を吐き続ける《少年》に、しかしマイはこれ以上ないくらいの真剣な面持ちで耳を澄ます。

数秒の後に、呟くようにその小さな唇が動く。

「…これは………コード?」

「コード?」

「何かの座標みたい。………だけどおかしいんだよ。こんな座標、見たことも聞いたこともない」

ここの意味での座標は、例えるならば地球の緯度経度。ネットでのURLのようなものだと考えたらいい。

VRワールドの全ては、単純なデジタルコードに置き換えができる。地球の緯度経度との違いは、与えられている座標が二次元的なものではなく、空中――――三次元にも至る事である。

まぁそのために、かの茅場晶彦がわざわざ量子コンピュータ理論をナーヴギアに引っ張り込まなければならないほどに情報過多になったのだが。

映画などでパソコンがハッキングされたときに画面に現れる、訳のわからない文字列のようなものか、と黒衣の少年は勝手に納得して、怪物に視線を戻す。

「とりあえず、アレはどうする?」

「今なら、あの素っ首吹き飛ばせると思うのですが」

「たぶん無理」

即答で二人の要望を却下したマイは、《少年》の足の先から頭の先まで《診る》。

その上で、結論付ける。

「アレ、自分の座標ごと別座標に飛ばしてるんだよ」

「…………つまり?」

「マイ達の目に見えてるのは、ただの映像ってこと。アレに攻撃しても虚しいだけかも」

「そんな事をして、何をしようとしているのですか」

カグラの問いに、しかしふるふると首を左右に振る少女。

「さっぱり分かんないんだよ。ただ、現象としたらSAOの転移現象に似てるかも。ずっと言ってるどこかの座標に転移させるための」

させる、というマイの言い方にピクリと片眉を動かし、《剣聖》は鋭く口を開く。

「誰をだ?」

しかし、密やかな期待に反し、この問いにも少女は首を振るう。

ふむ、と唸る一同。

何にせよ、不可解な状況には変わりはない。

「…………というか、あちらから襲ってこない以上、私達が無理に意識する必要はないのでは?」

「……………………………」

確かにそうだ。

今この状況は、あくまでもあの怪物が襲ってきたからこそ成立しているわけで、確かにソレイユ達には状況を把握したいという願望があるにはあるが、それは撃破とは違う。

平和的にこの場、この状況を収められるに越した事はないのである。

「じゃあ、どうすんの?帰るか?」

何気なしに放たれる少年の言葉には真剣みがないことから、冗談という事が分かる。

目の前の《少年》と戦う事は絶対条件ではないが、《元の世界》に戻る事は絶対だ。マイやカグラだって、そのレンという名の、あの怪物の見た目と同じ少年に会いたいはずだ。それはソレイユだって例外ではない。

しかし、紅の巫女はその冗談を大真面目な顔で請け答える。

「そうですね、ちょうど一服したいと思っていましたし」

「「おい」」

本当にきびすを返しかける巫女服の白衣の袖を、マイと二人して慌てて止める。

「何か?」

不思議そうな顔をして首を傾げる闇妖精(インプ)の巫女に、心の底から絶叫する。

「…………何がって、天然かよ……」

「ソレイユ、気づいてなかったの?」

はぁ、と。

しんどそうな、うんざりしたような表情で、真っ白な少女はため息をつく。

「昔からカグラは結構抜けてるところがあるんだよ」

「真面目なヤツほどって感じなのか………?」

いや別に全国の真面目さんが全員天然というわけでもないのだが。

というかカグラさん、その本気で何の事か分からない的な表情やめてもらっていいですか。なんかすっごい腹立つんで。

「でも、本当にどうするんだ?」

「待機、ですか?」

相も変わらず、あの訳の分からない怪物は、マイの言うところの《座標》を吐き出し続けている。

一字一句、一文言一単語すらも理解する事ができないが、それが分かるマイは少しの変化も聞き逃すまいとしているのか、真剣な表情を崩さずに耳を澄まし続けている。

「………間隔が短くなってる」

「「は?」」

「――――え、でも、これって………」

耳を押さえた少女の眉根に、初めて深い谷という名のシワが幾つも刻まれた。

その時には気が付かなかった。

二人とも、眼前の少女がいったい何に気付いたのか、何に眉根を寄せているのか、まったく分からなかった。

だが徐々に、本当に少しずつ、マイと同じように聴覚に意識を裂き続けていると、ある事実を認識し始めた。

テンポ。

狂ったように垂れ流されていた言葉の羅列のスピードが、明らかに速くなっていた。それは、ただ処理速度を早くしただけだというより、どちらかというと段階を一段階上がったというような、不可思議な不気味さがあった。

ぞあっ、と。

汗が蒸発するような。

血が逆流するような。

背筋に冷水をブッかけられたかのような感覚が全員を襲う。

一切の現実的、理論的な思考を無視し、本能や第六感とでもいうべき人間の根本的、根源的な部分が、現在の状況を全て無視してノドも枯れよと叫ぶ。

逃げろ、と。

「なん……だ………?」

「何か――――」

「来る……!」

時間にして、コンマ一秒あっただろうか。

最初に感じたのは風圧。

地下鉄で列車が来たときのような、圧倒的質量を持つ物体に空気がピストンのように押される事によって生じる、単純な空気の塊。それが何倍もの質量と速度を持って真正面から突進されたようなものなのだ。

なまじその正体が、実体のない空気であるために、生半可な抵抗行為など意味を成さない。

とっさにそれぞれの得物を地に突き刺し、懸命に踏みとどまったソレイユとカグラはいいだろう。しかし、凶悪な風圧に耐えうる身体(タッパ)も、地に突き刺したら身体を支えうるアイテムになりえたはずの得物も持たなかった少女が一人いた。

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

毛ほどの女子力も感じさせない叫び声は、ドップラー効果をともなって遥か遠くに流されていく。

というかもう、どうしようもなくマイだった。

「ま、マイ!?」

さすがに慌てたようにカグラが闇妖精(インプ)特有のコウモリのような翅を、力を込めたように一羽ばたきした後、躊躇うように少年のほうを見た。

「こっちは大丈夫だから、早く行ってやれ」

「…………申し訳ありません」

律儀に腰を追った後、その巫女姿が煙るように掻き消えた。

首を巡らすと、先刻マイが吹き飛んでいった方向の遥か彼方に、疾駆する紅点が輝く恒星のように一つだけあった。

やるな、と胸中で呟いた後、涼やかな音を伴って地に刺さったニ本の愛剣を数度振るい、刀身にこびりついたコケや土を払う。

ふぅ、と。

一度だけ息を吐き、そして吸う。

思考を、レールを切り替えるように仕切りなおす。

ケジメをつける。

両方の腕を垂らす。

素人から見れば隙だらけと見えるかもしれないが、これがソレイユの構えである。

無形の位。

一説では、古流の奥義と言えるくらい習得が困難な技の一つである。

前後左右、あらゆる角度からの攻撃に対応できる構えなど存在しない。自然体になり、自分の思ったまま、感じたままに剣を振れるのがこの構えの特徴である。

流派によって磨いてきた技は異なるが、すべての流派に適応される技もある。それは、技を捨てることも、また技の一つである、ということである。

「……さて、と」

ふっ、と《剣聖》と呼ばれる少年は寂しそうに儚く笑った。

正直に言えば、マイとカグラがいなくなってよかったと思っている。

彼女たちが足手まといというわけでもないのだが、やはり“違う”。

それはさておき、ソレイユは目の前の敵に目を向ける。真の強者とは言わないが、すくなくともそんじょそこらにはいない力を持ったものが目の前にいるのだ。心が躍って仕方がない――――はずなのだが、ソレイユの心はどこか冷め始めていた。

数センチ、もしくは数ミリ。

その感覚に耐え切れず、少年が目を細めた瞬間。

光が

音が

爆発した。










「まったく、どこまで飛ばされてるんですか」

「そんなこと言ったって、カグラとマイのステータスを比べられても困るんだよ」

気流の流れか小柄だったからか、予想よりもかなり遠くに吹っ飛ばされていた少女を回収した巫女装束の女性は、大気に円状の波紋を残す勢いで飛行していた。薄紫色の翅の先からは、飛行機雲のような筋状の白煙が大気中に延々と残像を残していく。

「でも、ソレイユ一人残してきて、ホントに大丈夫だったの?」

「……そうですね。彼の実力を疑うわけではありませんが、後悔をしていないと言う事は嘘になりますね」

軽く眼を伏せる女性。

背負う少女を支える腕に、少しの力が追加される。それが彼女の悔恨の念を表しているようで、少女は女性の首に回した腕に優しく力を込める。

「……大丈夫なんだよ、カグラ。だってソレイユは、レンに似てるもん」

「外見には、特に酷似点はありませんが」

もう、と。

軽く叱るように、さながら母親のように、少女は言う。

「見た目じゃないの。中身だよ」

「中身………」

その言葉に従って女性は脳裏に、先刻まで一緒にいたあの黒衣の少年を思い浮かべる。

正直、第一印象は物静かな少年だな、だった。

何を考えているか分からない。したがって、何をしようとするのかも計り知れない。不気味といったら不気味だった。

しかし、その考えは明確な《敵》が現れると同時に払拭された。

平凡な体格の身体から噴出した、圧倒的な剣気。

注意でも敵意でも悪意でも害意でも、殺意でもない。

ただ、眼前の強敵を斬り倒したいという、純粋な闘争心。

「……すみません、マイ。私には、やはり彼とレンが似ているとは思えません」

そう、彼とレンは違う。

彼の――――ソレイユの持つものが《闘争欲》だとすれば、レンの――――己が剣が主が溜め込んでいるのは単なる《破壊欲》だ。

似ているが、非なる欲。

己が主を悪く言うつもりは毛頭ない。毛頭ないが、しかし。

《闘争欲》と《破壊欲》

どちらが『悪』かと問われれば、どう足掻いても、どう捻っても、《破壊欲》が『悪』であろう。

それが表に顕現しないのは、一つの《呪い》のせいだ。

一房の、矢車草がもたらした《呪い》。

あれが己が主を《冥王》から、《鬼》から貶めたのは事実。それ自体は確かに、歓迎するべき事かもしれない。それによって、《殺人鬼》として追われる事はなかったのだから。

だが、あの《呪い》は良かったのだろうか。

確かに、確かにだ。あれによって主の人間関係は劇的なまでの広がりを見せた。それは間違いない冷厳な事実である。

しかし、同時に《呪い》が現在進行形であの少年の身を雁字搦めに縛り上げているのも事実。思考までも縛っているあれが、果たして『善』なるものなのかは分からない。

ひょっとしたら、あれはもっと――――

「見えた!」

少女の声で、巫女服の女性は意識を現実へ回帰させられた。

急いで前方へ意識を向けると、確かに遥か彼方の空中には一つの人影が見えた。

初めは、ソレイユかと思っていた。

だが、近付くにつれ、少女と女性の顔が強張っていく。

そこには―――― 
 

 
後書き
女子力の欠片もない少女の回でした(笑)
改めて考えてみると、ウチのヒロイン達の女子力って何なんでしょうね。
二人穀潰し、一人家事スキルなし………、あれ?まともなヒトがいない(汗)
もうこうなってくると、同じ穀潰しでも家事スキルが微レ存な巫女さんのほうがいいように見えてきますね、はい。
そして今回、地味に伏線を張っているのはカグラさんの言っていた(てか思っていた)《呪い》のことです。
皆様は覚えているでしょうか。
あちらこちらで『女性』や『矢車草』という単語で、無駄に伏線を張られまくっていた人物を。
まぁ詳しい話は次編のOVA編でやるとして、ここではさらに期待度を高めておきましょうかね。

一房の矢車草がもたらした、ささやかでちっぽけな《願い》。
それは善性の塊か、それとも悪性か。

………うん、あんまり書けねぇなw 
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