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終戦

作者:ルイス
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終戦

「ごめんなさい! 今の私は恋愛には興味がないの…… それでも、待ってて、くれるの?」

 とある鎮守府の司令官室で、提督の青年は初霜と呼ばれる艦娘の少女に指輪を箱入りでプレゼントしていたものの、見事にお断り(?)されていた。
 いや、お断りっというより、戦いが終わるまでそれまで待っていてくれといった感じのお願いだが。

「ぐはっ…… まあそうだよなぁ、戦時中だし…… あぁ勿論! もし戦いが終わったら改めて告白するよ」

 青年は仰々しく肩を落とすリアクションをするも、すぐに諦めがついてから笑った。
 先程彼が言っていたように今は人類の敵である深海棲艦と激しい戦いを繰り広げているのだ、よくよく考えると、そんなご時世に告白をしている方が間違っているのだ。
 それに、彼女自身恋愛よりも平和を守る事が一番大事なのだから、断られるのも無理は無い。

「ご、ごめんなさい」
「いやいや別に謝らなくていいさ! 寧ろ初霜らしい答えで嬉しかったし。取り敢えず今日の事は忘れて、これからも俺と仲間達の力になってくれ、頼んだぜ!」

 提督の青年は謝る初霜にそう言うと、微笑んで手を差し出した。
 すると、初霜は少し頬を染めて、彼の手を握ると

「はい!」

 っと嬉しそうに彼へ答えた。











 数十年後。

「よっしゃあああ! 作戦成功だ! これもみんなの力のおかげだな、ありがとう!」

 口元に髭を生やした青年だった頃の提督は、中年になり、少し髪に白髪を生やしていた。
 彼は本部から作戦を言い渡されており、それを長い月日を掛けて、ようやく仲間と一緒に成功させたのだ。
 提督は初霜や仲間の艦娘達に一人ずつハイタッチをして、喜びながら感謝する。

「勝利の祝いに赤飯は勿論の事、高級料理が並んでいる事を期待するぞ?」

 初春が優雅に扇子口元を隠しながら微笑み、そう彼へ言うと、提督はフランクに笑って 

「HAHAHA、この貧乏な鎮守府で何を期待しているのだ初春よ、勿論今日は赤飯と僕お手製の今日釣った魚の活け造りさ! 赤飯の方は今から買い出し行ってくる。手持ちの資金はお察し下さい」

 真っ青な顔でそう答えた。

「おぉ、活け造りか、それは楽しみじゃな、なぁ初霜よ」
「そ、そうね…… でも、提督が凄く涙目で財布を見てて…… 何だか申し訳ない感じがするわ……」











 十年後。

 提督はほとんどの髪が白髪に変わりかけており、皺もそこかしこに目立つ、老いを感じる中年の男性になっていた。
 彼は電話で遠くの提督と何やら重要な会話をしており、苦渋に満ちた表情で受け答えをしている。
 どうやら、現在交戦中の海域で成果が芳しく無いみたいで、支援要請を受けているみたいだった。
 
「そうか…… 前線が押されているのか、了解。支援艦隊を編成してそちらに送ろう」

 提督はそう頷いて答えると、電話を切る。
 そして、額を押さえてどうしようか考えに耽っていると数分後に扉のノックが聞こえ、立ち上がってから扉まで歩き、ノブを回して扉を開いた。

「提督、お茶が入りました」

 お茶の入っているお椀を乗せたお盆を持った初霜は、彼に微笑みながらそう言って中へ入り、お盆を彼の机へ置く。
 提督は彼女の気遣いに微笑むと

「あぁ、初霜。ありがとう…… なぁ初霜、さっき本部から連絡があったんだが、前線で戦ってる提督から支援要請を受けたんだ。お前と初春、子日、若葉の第21駆逐隊で至急、北方海域へ向かってくれ」

 っと少し苦い顔をして命令を下した。
 北方海域は現在、別の艦隊が敵艦隊と激戦中で、敵側の方が数的有利だ。
 大切な仲間をそんな場所に送ってしまう事に、提督は心苦しく思っていた。
 彼は状況説明をして、大丈夫かどうか初霜に問う。
 だけど、彼女は、

「はい、了解しました!」

 快く頷いて引き受けた。
 彼女はどんなに不利な状況でも仲間を置いて逃げようとはしない、しかし、それでも彼は祈るような声で初霜へ頼んだ。

「初霜、どうか轟沈だけはしないでくれ…… 中破したらすぐに引き返すんだ、いいな? 三人にもそう伝えてくれ」



 それから数日後。第21駆逐隊は初霜、若葉、子日が大破しながらもギリギリ勝利して鎮守府へ帰還し、提督は泣いて彼女達へ謝った。












 二十年後。

「良かろう…… 今ある資源を可能な限りそちらに送る。別に感謝等要らんよ、儂らは仲間じゃないか…… あぁ、それじゃあな」

 髪が白くなりほとんどの皮膚が皺だらけになった年老いてる提督は、電話の相手にそう優しく言うと、電話を切る。
 彼の隣には初霜が心配そうな顔で立っており、呟くような小さな声で彼に声を掛けた。

「提督……」
「おぉ、初霜…… 居たのかい? 多分聞いたと思うが、すまん。少ない儂らの資源を他の提督達に渡す事になっちまった。独断で勝手に決めて悪いな」

 提督は苦笑しながら彼女へ謝る。初霜はそんな彼に慌てて

「いえ、謝らないで下さい! 提督の判断は私…… 正しいと思うわ」

 っと笑みを浮かべて答える。

「ふふっ…… そう言って貰えて儂は幸せだ。さてっとそれじゃあ…… うおっ!」

 提督が彼女の気遣いに微笑んで感謝し、立ち上がる。
 そして、机に掛けてあった杖を持って、歩こうと足を動かしたその時。足がもつれて前へ倒れようとしていた。

「提督!」

 初霜はすぐに彼の手を取って引き寄せ、転倒する事を防ぐと、彼の身体を支えた。

「おぉ、初霜…… すまん。最近どうも足腰が悪くなってきてるみたいだ…… もう、儂も年か……」
「提督、もう引退してください…… もうお年なのに、それ以上無茶したら身体に悪いわ……」

 彼女は不安そうな 面付きで彼に退任するように促すも、彼は首を振って笑みを浮かべながら

「心配するな、初霜。例え身体が悪くなろうともこの戦いが終わるその時まで、儂は仲間と共に戦い続ける。平和が訪れたらゆっくりと余生を送りたいしな…… それに、ここに居れば秘書艦の初霜が儂の隣に居てくれる。それだけで儂は最高に幸せなんだ。」

 っと言葉通り幸せそうに返すのだった。 

「提督……」











 数年後。

 母港が近くにある海辺にて。

 初霜は沢山花の置かれた提督の名前が彫られた小さな石の前に立っており、花束と小型の箱を持って悲しく微笑みながら呟いた。

「提督…… 戦いは終わりましたよ。提督や私、みんなが夢見た平和…… それがとうとう実現したのです」

 彼女はしゃがんでから、花束を既に花が沢山置かれている場所へそっと添えるように置く。
 提督は遺言で骨を母港近くの海へ流してくれっと遺族に頼んであり、それゆえ、この場所に墓石が建ったのだ。

「提督、親戚の方から聞いわ…………  戦いの終わるその時まで傍に居る事が出来なくてすまないって…… 最期の台詞も提督らしくて、私…… その後今までの思い出が蘇って、戦っている最中でも泣いてしまったわ…… 謝るのは私の方…… 提督が亡くなる時、傍に居れなくてごめんなさい…… ずっと、墓参りも出来なくてごめんなさい……」

 初霜は声を震わせながら、墓石に謝り続ける。
 彼女のその目には、小さな雫が零れおちていた。

「提督、あの時、私にケッコンの告白をしてくれましたよね…… 遅れちゃったけど、もう今更になっちゃったけど…… もし提督が良ければ私……」

 持っていた小さな箱をゆっくりと開いた初霜は、箱の中身に入っている指輪を取る。

「貴方からのケッコンの申し出…… お受けします…… ずっと、貴方のお側に居ます。だから、安らかにこの場所で平和になった海を見守ってね」

 そう言って、初霜は微笑んで涙を流しながら、墓石の前で生前彼から贈られた指輪を嵌めたのだった。 
 

 
後書き
もう少し文章力を鍛えたいっという本音。 
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