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月の月面砂漠【完結】

作者:ネアンデルタール家元


人生全てが牢獄だと悟った。退屈で単調な毎日は食べるための苦役より天国だ。何もかも捨てて旅に出たけれど行く先々で傷つき疲れた。解放区なんかどこにもない。肉体は牢獄だ。幻の解放区を探す虚しさに気づいて濃密な都会に逃げ戻った。そこに救いは不要だ。寿命という名の消化試合を静かにこなしたい。田舎の封鎖社会なら地産地消で経済が回るけど東京なんて人は多い。ほぼ輸入品みたいな感じで外国発の情報や物がどんどん入ってくる。地方からキャリーケースを引いた人々が朝からわんさか入ってくる。そんなごみ溜めを多様性の綺麗ごとで浚渫したって目新しさなんて何も出て来やしない。せいぜい使い古したパターンをマイルドに味付けして無垢な世代に突き付ける。元ネタが毒々しいから彼らにとって十二分に刺激的だ。そんなおためごかしに心を奪われ胸をときめかせて人生を簡単に変えてしまう若者たち。見ていられなくなってまた砂丘を歩く旅に出た。
そこで様々な出会いをする。そして人を愛する。そういう物語なのかもしれない。その都度に人はあの人になる。自分の身の回り起こす、その瞬間に「私が私でいられる機会」を求めてきた。それはどの世も似たり寄ったり。そういう世界があるだって。
ある物語。ある街の人々に愛されて。人々はそれを誰ひとり疑わない。人々はそうしてくれた、この瞬間だから生きなければならない。そういう世界がある。そういう人々で成り立つのだ、私たちは。
そんな彼らを、彼らの、私たちの物語を、見つけてみたいと思った。見つける事によって彼らとの繋がるこの街と、この世界が繋がる。そんな世界が広がってほしい、そういう願いを聞きながら、また別の街が現れる。新参者の私が。
いつか、いつか、誰かから愛されるものを見つけないといけない。そう思いながら私は私たちを見つけたらいい、そう思いながら歩いている。
いつか、いつか、誰かから愛されるものを見つけないといけない。そう思いながら私は私たちを見つけたらいい。私は私を、誰かを、認めなくちゃいけない。だから月の砂漠まで全財産はたいて来たのだ。



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タイトル更新日時
月の月面砂漠 2021年 08月 11日 20時 39分 

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