レビュー

  •  銀河英雄伝説の二次小説は原作を巧みに崩壊させた(誉め言葉)が作品がいくつかありますが、この作品も序盤から原作の前提をフッ飛ばして独自の世界観を見事に築き上げています。

     転生者主人公は皇族の血をひく門閥貴族の公爵令嬢。彼女には過酷な銀英伝世界で生き抜く為の政治、策謀、軍事のチートな才能は一切ありません。天才とまではいかないもの絵画を得意とする芸術スキルの持ち主です。

     かくして学習教材として自作した紋章合せという名の麻雀が士官学校や貴族社会で決闘に代わる遊戯として流行して、最終的にフェザーンでも地球時代の麻雀が流行って何故か地球教もにっこり(笑)

     高級麻雀牌が象牙で作られ、ペクニッツ子爵の借金が清算され、ラインハルトの父親も破産せず、貧しい帝国騎士の一家が赤毛の少年の家の隣に引っ越すこともなく……と上記のように風が吹けば桶屋が儲かるではありませんが、主人公の行動や言動が様々な箇所に波及して予期せぬ方向に物語が進んでいく様が面白い。
     
     そして気が付けばルビンスキーに養育されているルパート・ケッセルリンク少年がラインハルト少年とブラウンシュヴァイク家で出会い初めての友となる。全く持って展開を予想するのが不可能で飽きさせません。

     原作崩壊が許せないなんて心の狭いことは言わないで読んでみれば、丁寧に描かれる物語の節々から作者の銀英伝に対する愛を強く感じることができます。これは心からの愛が書けない類の二次小説です。

     2013年から不定期ながらも定期更新が続けらており、美しい手織物が少しずつ編み込まれていくといった印象を受けます。独自考察による銀河帝国の貴族社会の描写も素晴らしく、フランス革命前の王政時代(アンシャン・レジーム)の貴族サロンの雰囲気を銀英伝の世界観で濃密に楽しむことができます。

     今後も未だ登場していない原作のキャラがどのように描かれるか楽しみで仕方ありません。