つぶやき

Ardito
 
ボツBL
 それが人でないことは一目でわかった。
 何せ、人にはあるはずのない第三の瞳がぱっちりと目を開き私を見ていたのだから。
 しかし、彼の額に鎮座した夕日のような真紅の瞳は、彼の美しさを損なわせるものではなかった。
 むしろ彼の持つ聖性をより高める一因の一つでしか足りえない。

「王子」

 真紅の瞳の下には神の証である黄金の瞳が輝き、やさしげに細められている。
 月の光を集めたかのような長い白銀の髪は春の日差しを反射して柔らかな輝きを放ち、まるで彼自身が光を放っているかのようだった。
 そのあまりの神々しさに己が話しかけることで彼を穢してしまうのではないかと、彼の前ではいつも身体が竦み、言葉は喉の奥で詰まってしまう。

「また遊びにきたのかい?」

 彼はそんな私の心情を知ってか知らずか、何ら気負うことなく距離を詰め、慈愛に満ちた指先で私の頭をそっと撫で、膝を折り幼い私に視線を合わせて愛おしげに微笑むのだ。

「良いよ、今日は何をして遊ぼうか。 そうだ、森の奥に美しい花が咲いたのだった」

 父王に王家の森に住む彼が何であるのか尋ねると、彼こそが我が王国の守り神に他ならないと教えてくれた。
 数え切れぬ程の年月を生き、初代の王と契約を交わしてからは代々王が生まれてから灰と化するまでを見届けてきたという。
 正真正銘、まがうことなき神。 ――私とは違う理を生きる存在。

「案内してあげよう。 さあ、こっちへおいで」

 そういって差し出された守り神の柔らかな手に、私は戸惑いながらも己の手を重ねて握り返した。

「はい――……ハク様」

 最初は亡き母を重ねていただけだったはずだ。
 それが、いつからだろうか。

 ――私は、この清らかな存在が、どうしようも無く欲しくて欲しくて堪らないのだ。

 ◇

 けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音で僕はハッと目を覚ました。
 慌てて布団から飛び降り、離れた場所に置かれた目覚まし時計を叩いて音を止め、はあぁ……と一息つく。
 そして徐に両手で頭をかき乱すと、再び布団に飛び込んだ。

「っ――ぬがあぁああああっ! まったあの夢かよっ! もうどうなっちゃってんの僕の頭っ!」

 あの夢を見るようになったのはここ、鷲澄学園高等学校に通い始めてからだ。
 もっというと、僕がこの学校の生徒会長になって少ししてから、かな。

 因みに鷲澄学園は全寮制男子校で、副会長の三橋は王道学園だとか騒いでたっけな。
 会長になったばかりの一年の時は「是非とも俺様生徒会長に!」とか言ってたけど意味が分からなかったから無視している。 なお、一年で生徒会入りしたのは僕だけで後はみんな先輩だ。

 別に生徒会に入って特に変わったことなんて無かったと思うんだけどなぁ。 何が切っ掛けなんだろう……。

「なんだってんだよ……何が悲しくて、第三者目線で自分の容姿を褒め称える夢を見なくちゃいけないわけ……? 僕の潜在意識にそんな願望があるとか絶対思いたくない……それ、どんな変態だよっ……!」

 そう、さっき見た夢は|僕の夢《・・・》であるにも関わらず|僕視点《・・・》では無いのだ。
 具体的に言えば、いつも夢は「王子」とやらの視点で展開されるがその夢に出てくる「守り神」なる存在の容姿が僕その物なのである。
 一人称や話し方なんかも僕と一致するし、性格だってたぶん同じだ。 僕は別に聖人君子じゃないけど小さい子には優しいからね! 視線の高さから言ってまだ王子は幼いようだし。

 ああ、もちろん僕はただの一般的な男子高校生だから髪の色は黒いし、瞳の色だってやや色素が薄いけど黄色っぽい茶色だ。 額に第三の目とかあるわけがない。 そんなんあったらグロイはっ!
 でもそれ以外の特徴は全部一致する。 ならば、あの「守り神」ってのは僕自身なのだろう。

「ははは……自分がファンタジー世界の神様的存在で、その世界のちびっこ王子様にべた惚れされて褒めちぎられる夢を連日見る男子高校生とか……嗤うしかねぇっつーの……ナルシストな上に中二病、ついでにショタコンか……? ……だめだ、完全に犯罪者な未来しか見えない……」

 子どもは好きだけど、性的な意味は一切無いはずなのに何だったってこんな夢……ああもうやめやめ! 何だかんだこの夢見始めてから2年が経ってしまった。
 散々考えて別の夢見るために試行錯誤もして、その結論は考えるだけ無駄だってことに落ち着いたじゃないか。
 自分をべた褒めされる夢なんて恥ずかしいは痛々しいはでいっそ死にたくなるけど見てしまうものはどうしようもない。
 精々現実の世界で犯罪者にならないよう気を付けよう! うん!

 僕は無心で朝の身支度を整え朝食を作るためにキッチンへ向かった。
 これから我が愛する自堕落な友人たちが雁首揃えて朝食を食べに僕の部屋へくるはずだから、ちゃっちゃと作ってしまわないと。 目が死んでる自覚はあるけど、朝は低血圧でテンション低いというのは伝えてあるから問題ないだろう。
 というか文句なんて言わせない。 文句があるなら朝ごはんくらい自分で作れってね!

ここまで来てボツに決定。
設定やり直し。