つぶやき

こばやかわひであき
 
乱世の確率事象 裏分岐√『白と黒が捧ぐ鎮魂歌』
もし、彼女が弱さに耐えかねたのなら。彼に頼ったのなら。そして彼が耐えられなかったのなら……
物語は姿を変える。歪なカタチへと。
60話『少女の慟哭』分岐√
――――
 涙に暮れる白蓮の身体は未だ震えていた。
 自身に押し寄せる罪悪感は秋斗の心を蝕み、せめて何か返す事が出来ないのだろうかと思考を向けていく。
 ふいに、彼女は顔を上げた。涙で濡れる彼女は美しく、儚げで、誰しもが守りたくなるような少女であった。
 見つめられた秋斗の胸はさらに締め付けられた。瞳の中の絶望を覗いてしまったが為に。今、彼女を支えられるのは彼だけなのだ。何かを与えてやれるのも彼だけ。

「……牡丹は……お前の事が……好きだったんだ」

 唐突に、なんの脈絡も無く告げられた一言に秋斗の思考が真っ白になった。
 牡丹は白蓮が好きだったはず、自分に淡い感情を向けるわけがない、そう思っていたから。
 呆然とした秋斗の様子を見て、白蓮は眉を寄せ、熱っぽい視線を向け始める。

「やっとわかったよ。あいつが好きになった理由も……」

 折れてしまった心は皮肉にも、折った相手を求めてしまう。
 悲しみに耐えられなかった彼女は失った心の空白を埋めようと、傍にいる彼を求めてしまった。
 未だ思考が定まらない秋斗は白蓮を見ながらもその状態を把握出来ていなかった。
 だから……すっと唇が重ねられて、数瞬の間を置いて離れて漸く、彼女に意識を向ける事が出来た。
 悲しみに染まった瞳を見て、苦しげな表情を見て、彼女を支える方法がすぐに頭に浮かぶ。もう一度、求めるように顔を寄せられたが……

「お前は寂しいだけだ。失ったからそう勘違いしているだけだ。今のは忘れろ白蓮」

 肩を押して、優しく突き放した。本当に支える為の方法では無いのだと知っているから。
 秋斗の言葉を聞いた白蓮の目からは再び涙がこぼれ始めた。

「……っでもさぁ……胸が苦しいんだ、もう、ダメなんだ……一時の夢でいいから……この幻想に溺れさせて、全部を忘れさせてくれよ……そうしたら……きっと私は元に戻れるから」

 ぐちゃぐちゃになった心のせいで、星の想いも牡丹の想いも頭には無かった。
 はらはらと涙が落ちるまま、泣き笑いの顔を向けられて、秋斗の心が揺れ動く。
 大切な友を支える為に出来る事の一つなのだ。
 ただ、それをすればどうなるか……彼とて分かっている。
 何より……あの子を傷つけてしまうのだから出来るわけがない。
 しかし、目の前の壊れそうな少女を放っておけるかと聞かれても、秋斗には判断できなかった。
 迷っている内に、白蓮は秋斗をゆっくりと押し倒し……再び唇を重ねた。そして抱きしめて口を耳元に持っていき、偶然にも、彼の心の一番弱く脆い所を突き刺した。

「……嘘つきに、なって。一時でいいから、私の為だけのお前になってくれ」

 弱っている状態で『嘘つき』の言葉を聞いて……秋斗の脳髄に呑み込んだはずの怨嗟の声が溢れかえる。その中の一つに、白蓮の失った大切なモノ、秋斗にとっても大切なモノの声が追加されていた。

――ねぇ、秋斗。私を助けなかったのに、私が助けた白蓮様を助けてくれないんですか?

 彼の瞳に絶望が溢れかえる。だが、抱き着いている白蓮には見えてはいなかった。
 心が潰れる寸前にまで追い詰められている事に彼女は気付く事が出来なかった。
 無言のままでいる秋斗の様子から、受け入れてくれるのだと判断した彼女は優しく止めの言葉を告げる。

「ありがとう、助けてくれて」

 白蓮が放った言葉の意味は、命を助けてくれたのは秋斗でもあると感じている為のモノであった。
 だが、今の彼がそれを聞くとどうなるか。彼女には分からない。
 そのまま……秋斗の心に大きなヒビが入り、脳髄の中の牡丹が微笑む。

――私の心は白蓮様と共にあるんです。だから……白蓮様と一緒に愛してください。そうすれば、私も白蓮様も助けられますよ。

 甘い誘惑。砕けかけた彼の心にはじくじくとしみ込んでしまうほどの。
 白蓮は耳に、頬に、首筋にと、本能の赴くまま、一つ一つ口付けを落としていく。
 二つの甘美な誘いには、弱り切った男が抗えるはずも無く。
 彼女を抱きしめて、甘い瞳と目を合わせ、自分から……口付けを交わし、心に空いた穴を埋めようと、彼女を求めてしまった。

――――
エイプリルフールなので嘘です。続きません。
こんな思いつきのIFルート。ふしだら禁止です。ぎりぎりのラインでは無いでしょうか。
こうなるとメインヒロインが白蓮さんに移行しますねー。
主人公はぶっ壊れますけども。

ではまたー