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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十五話 酔う
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いたのだと思います。そして貴方達に心配をかけている。まるで子供ですね、私達は。情けない話ですよ」
委員長は本心からそう思っている様だ。今の彼は政府の実力者というよりごく普通の若者にしか見えない。それにしてもヤン提督が好き? 本当だろうか。

「いつもそのくらい素直ならいいんです。少佐は心配していますよ。閣下がヤン提督を排除するんじゃないかって」
「私が、ですか?」
大佐の言葉に委員長が意外そうな声を出した。
「ええ、今の閣下はそれを容易く出来るだけの実力を持っています。そして帝国との間に和平を結ぼうとしている。少佐が心配するのは当然だと思います」
委員長が困惑気味に私を見た。そして溜息を一つ吐く。

「そういう事はしません」
「……」
「同盟と帝国は和平を結びますが同盟関係を結ぶわけではない。私は同盟と帝国が協力し合って宇宙の安定と人類の繁栄をもたらす事を望んでいますしそのために努力しますが、それが絶対に可能だとは盲信していない。自分の理想に酔ってはいません」
酔ってはいません、と言った時の委員長の表情は厳しかった。ヤン提督の事を思い出したのかもしれない。

「たとえ和平を結んでも帝国は戦争勃発の可能性がある仮想敵国として存在します。当然ですが同盟はそれに対して備えなくてはならない。抑止力が必要なのです。フェザーン方面に要塞を置こうというのもその一つです」
それは分かる。だが要塞を置けばかなり戦争の危険は減るだろう。つまりヤン提督の必要性はかなり減るのではないだろうか。

「ヤン提督も抑止力の一つです。アルテミスの首飾りを攻略した彼は帝国でも最も注目され危険視される指揮官でしょう。そういう指揮官を排除するなど有り得ません。彼にはこれからも働いて貰わなければならない、同盟を守る抑止力としてね。私はそう考えています」

きっぱりとした迷いの無い口調だった。ミハマ大佐が私を見た。目が大丈夫でしょう? と言っている。有難うございます、大佐。これまで何度もヤン提督が排除されるのではないかと危惧してきた。相談する度に大佐に否定されてきた。今日、ようやくそれを信じる事が出来た。

目の前の委員長は冷徹ではあっても冷酷ではなかった。そして理想にも酔ってはいない。極めつけのリアリストだった。ヤン提督を排除するよりも利用する事を考えるだろう、たとえそれがどれほど不愉快であろうとも……。




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