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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十一話 責任と自覚
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向こうからの要請だけじゃない、他に何か行く必要が有るのだ。

「調印だけじゃないんだな。和平か、何処まで詰めるつもりだ」
「……まあ色々有ります」
「色々?」
「ええ、帝国が発行した国債、それから企業の株をどうするか、イゼルローン回廊の開放、それと今後の同盟と帝国の協力体制の確認、フェザーンの独立、……色々です」

溜息が出た。一口水を飲んだ、ヴァレンシュタインも水を飲んでいる。
「和平条約の叩き台を作るつもりか?」
「そこまではいきません。まあ精々ガイドラインになればと思っています」
「……」
「これは他の人には任せられないんです。市民に迎合して不必要に条件を厳しくしかねない人には任せられません」

「どういう事だ?」
ヴァレンシュタインが苦笑を浮かべた。
「戦争し和平を結ぶ、そしてまた戦争。歴史上そういう例は沢山有ります。何故だと思います?」
「……対立要因が残ったという事か?」

「より正確に言えば対立要因の解消を怠った、自国の利益を追求する事を優先し過ぎた、そんなところですね」
「……」
「危険なんです、民主共和政国家ではどうしても政治家は市民の声を無視出来ない。そして市民は戦争の代償を過大に求めたがる。目先の利益を追求し将来の事を考えない」
なるほどな、そういう事か。ヴァレンシュタインは沈痛な顔をしている。それがせめてもの救いだな。

「レムシャイド伯も言っていましたよ。民主共和政は市民の声を取り入れるという意味では優れた政治体制かもしれないが市民が聡明で常に正しい判断をするという事が前提になっていると。ルドルフ大帝はその市民を信用出来なかった、前提そのものが間違っていると思ったのではないかと。自分にも市民がそこまで聡明だとは思えないと。……私にはレムシャイド伯の言葉を否定出来ませんでしたね、ワイドボーン提督、貴方には出来ますか?」
「……」

否定しなければならなかった、だが出来なかった。百パーセント正しいとは言わないが幾分かの真実がそこには含まれている。口籠る俺をヴァレンシュタインは嗤わなかった、蔑みもしなかった。ただ哀しそうな表情をしていた。
「自分に何が出来るかは分かりません。ですが私は帝国を知っていますし同盟も知っている。平和が続くには両国の協調関係が必要だという事も分かっています。他の人よりも適任でしょう」
溜息が出た。それを不同意と思ったのだろう、ヴァレンシュタインが言葉を続けた。

「帝国は門閥貴族が滅びました。これ以後帝国は政府の元に一つに纏まります。あっという間に国力は増大しますよ。元々帝国の方が同盟より倍近い人間が居るんです。その気になれば三十個艦隊を編成する事も簡単でしょう。戦争になったら今度は同盟が苦しみます。何故あの時しっかりと協調体制を取らなかったのかと悔やむ
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