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手を上げた。すると騎士の連中が一斉に突きの構えを取った。将の右手が振り下ろされた時、それがわたしとアンナが死ぬ時なんだ・・・。悔しさと怒りで胸がいっぱいだ。わたしの過ごしたこの街が、母様が好きなこの街が、父様が守ってきたこの街が、あんな野蛮な奴らに蹂躙されるなんて。

「突撃!!」

将の右手が振り下ろされた。アンナが自分の胸にわたしを埋めるように抱きしめてきた。わたしの耳元に「来世は本当の姉妹になろうね」ってアンナの囁きが。「うん、絶対になろう」って頷く。人生最後がアンナの胸に顔を埋めるなんて、ちょっとおかしいよね。でも、安心できるんだから嫌じゃないよ。近くまで来ている気配に、わたしは目をギュッと瞑った。痛く感じる前に死ねたらいいんだけどなぁ。

――護り給え(コード)汝の万盾(ケムエル)――

ガキィーンていう甲高い音が耳に届いた。辺りから息を呑む気配。わたしを抱きしめているアンナからも緊張を感じる。続いて、「何だコレは!?」「魔力障壁だぞ!」「誰の魔導だ!?」って、死神騎士団の混乱に満ちた叫び。
アンナの胸に埋まってた顔を出して、ようやくわたしも現状を知ることが出来た。わたしとアンナを死神騎士団の攻撃から守るように、小さな円い盾が無数に折り重なって大きくなってる盾があった。その盾は死神騎士団の武器を完全に防いでいて、見惚れてしまうほどに綺麗な蒼い光で出来ていた。


「その娘と先約があってな。それを済ます前に居なくなられては困るんだよ」


空から男の人の声。聞き覚えのある声。でもこの場に聞こえるはずがない声。だってその声の持ち主は、体を動かす事も出来ない重傷人なんだから。空を見上げる。うなじ付近で束ねられた銀の長髪が尻尾のように揺れて、紅と蒼の虹彩異色の瞳は、死神騎士団を見下ろしてる。
上から下まで全部が漆黒の長衣。外套も黒。だけど縁どりに金の刺繍があって、高貴さが見える。何より目を引くのが、背中から出ている蒼い光で創られた12枚の剣。それが左右に広がって、まるで翼のようだ。

「命を救ってくれた恩を返す前に死ぬのはやめてくれ、エリーゼ」

「オー・・・ディン・・さん・・・!」

どうして動けるの?だとか、そんな疑問は今はどうだっていい。本能が告げてくる。わたしとアンナは、もう死ぬことはないんだって。オーディンさんの神々しい姿を見たら、絶望どころか希望が湧いてきた。オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードさん。不思議なあなたに、わたしはここにお願いをします。

「助けてくださいっ、オーディンさん!」

「ああ、任せろ。これより一方的な殲滅戦を見せてあげよう」

そう言ったオーディンさんは左腕を大きく空に向かって突き出した。




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