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第三章

「あの御主人だからあそこまでなれた」
「そしてあの御主人もな」
「最高のプリマドンナを手に入れたしな」
 彼にとってもいいことだったというのだ。
「最高の巡り合わせだったよな」
「まさに神のお導きだよ」
「全くだ」
「さて」
 こうした話をしているうちにであった。
 いよいよ開幕の時間だ。オーケストラはもう用意に入っている。
「はじまるな」
「ああ」
「これからな」
 誰もが無意識のうちに身構えた。
「最後の歌が聴けるぞ」
「プリマドンナの最高の技巧がな」
「これで聴きおさめだ」
「耳に残してやる」
 彼等もまた期待していた。そうしてだった。
 彼女が出て来るのを待っていたのだ。その時彼女は。
 舞台裏でドレス姿になってだ。夫と話していた。彼はこう妻に告げていた。
「それでだけれどね」
「ええ、最後の歌ね」
「それはもうあれでいくよね」
「ええ、あれにするわ」
 こう夫に答えた彼女だった。
「あの歌でね」
「そう、わかったよ」
「あの歌よね」
「わかったんだね」
「私がずっと歌ってきた歌っていったら」
 彼女は真剣に考える顔でだ。夫に述べたのだった。
「あれしかないから」
「そうだよ。やっぱりわかったんだね」
「ええ、それじゃあ」
「その時が来れば出てね」
「私の最後の舞台に」
「第二幕だよ」
 その時だというのである。
「頼んだよ」
「ええ」
 夫の言葉にこくりと頷きだ。その最後の時を待つのだった。
 舞台がはじまり少しずつだが確実にその第二幕に近付いていく。こうもりの第二幕は宴会の場面でありそこでゲストが出ることもあるのだ。今回のゲストは彼女ということだ。
 観客達もそれがわかっていた。そうしてである。
 第二幕を待っていたのだった。
「いよいよだな」
「そうだな」
「第一幕が終わった」
「後はな」
「第二幕がはじまるぞ」
「遂にな」
 それを待ってだ。そうしてであった。
 第二幕の幕が開いたのだった。そしてその時が来た。
 彼女が舞台に出て来た。その時に観客席から拍手が起こった。
 そしてだ。彼女が舞台の中央に来るとだった。舞台にまた二人来た。
 髭だらけの顔の太った男に立派な体格の女がだ。それぞれタキシードとドレスで来たのである。そうしてそのうえで彼女のところに来たのだった。
「えっ、おい」
「あの二人まで来たのかよ」
「まさか」
「こんなサプライズが」
 観客達は二人の姿を見て驚きを隠せなかった。二人共オペラ界にその名前を知られている世界的な存在である。彼女に匹敵するだけのだ。
 その彼等がだ。出て来て彼女に告げるのだった。
「ディム、おめでとう」
「最後の舞台ね」
 サーという称号の女性名称である。それを
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