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第二章

 そして二人でだ。話に入るのだった。
「考えているけれどそれでも」
「それで僕にだね」
「ええ。相談に乗って欲しいの」
 そうだとだ。彼に話すのだった。
「夫でもありボイストレーナーでもある貴方にね」
「そして指揮者でもある」 
 彼は自分からこのことを話してきた。
「そうだね」
「最後の舞台も貴方が振ってくれるから」
「うん。だからこそだね」
「それでどの曲がいいかしら」
 あらためて夫に問う妻だった。切実な顔でだ。
「あなたはどう思うかしら」
「一つあるよ」
 夫はこう妻に告げた。
「一曲。いい曲がね」
「あるの」
「ないと言えば嘘になるよ」
 穏やかな笑みを浮かべての言葉だった。
「それはね」
「じゃあその曲は」
「ほら、君がずっと歌ってきたね」
「ずっと?」
「そう、ずっとね」
 その曲だというのだ。
「君が歌ってきた曲だよ」
「多いけれど」
 歌手である。それならばだ。 
 その数も実に多い。彼女は自分ではわからない。
 だが夫はだ。その妻にあえてヒントを出すのだった。
「だから君が子供の頃からずっと歌ってきた曲だよ」
「ずっとなのね」
「そう、ずっとだよ」
 微笑んでだ。ヒントを出したのだった。
「これでわかったかな」
「ええ」
 彼女もここでわかった。それでこくりと頷いた。
 そしてだ。夫に対してこう話したのだった。
「あの曲ね」
「歌えるよね」
「勿論よ」
 穏やかな笑みをだ。彼女も浮かべた。
 そのうえでだ。夫に対して答えた。
「じゃああの歌を」
「歌おう。それでいいね」
「わかったわ。それじゃあね」
 こうしてであった。二人で話をしてだった。決めたのだった。
 彼女は夫と共に最後の舞台を進めていた。そしてロンドンに向かった。
 ロンドンの最後の舞台はだ。その彼女の最後の舞台を見ようという観客達で溢れていた。皆口々にこう話していくのだった。
「長い歌手生活もな」
「そうだな、終わりだな」
「いい歌手だったよ」
 しみじみとした言葉も出た。
「これでお別れなんて惜しいよ」
「本当にな」
「あの人柄も好きだったよ」
「温かくてな」
 その人柄も評価の高い歌手だったのだ。
「歌手としての技量だけじゃなくてな」
「夫婦で二人でずっとやってきたしな」
「そうそう、それな」
 夫もだ。話に入ったのだった。
「あの御主人と一緒になったからな」
「あそこまでなれたよな」
「全くだよ」
 こう話されるのだった。

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