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渦巻く滄海 紅き空 【上】
三十  狐雨
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酷く澄んだ水音がした。
それはゆっくりと円を描いて、やがて静かな凪を生む。


薄暗い天井に渡された幾重もの鉄パイプ。錆ついたその一部から落ちる水滴が、鉄格子の合間に覗く九尾の鼻先を僅かに濡らした。

《小僧ぅぅ…なぜ、その名を知っている…》

開口一番に疑問を突き付ける。己の名を口にした目前の子どもを、九尾は剣呑な眼で睨みつけた。

鉄格子がビリビリと揺れ、張り詰めた空気が閑散とした回廊に満たされる。この世に生きる者全てが縮み上がってしまうほどの威圧感。低い唸り声を上げる九尾を、ナルトは静かに見返した。

尾獣の威圧をその身に受けても狼狽すらしない。山の如き巨躯を前にして微塵も動じない。
そんなナルトの態度に、九尾は顔を顰めた。猜疑と困惑が宿る赤き瞳に、好奇の色が加えられる。
《その名を知る者は、今やワシと同じ尾獣しかいないはずだぁ…》
言外に答えを求める。九尾の言葉にナルトは何も言わなかった。逆に「気づいているか?」と問い返す。
「すぐ傍に『守鶴』がいる事を」
ぴくりと九尾の片目が吊り上げられた。一尾の名前まで知ってやがるのか、と内心驚愕するも、その動揺を押し殺して《アイツか…》と鼻を鳴らす。

「近いうちに暴れる。それも此処、木ノ葉で」
《面白い。精々暴れてもらおうじゃねえか》
前足を優雅に交差させ、その足に顎を乗せる。完全に傍観する心積もりである九尾を、ナルトはわざと挑発した。

「いいのか?『一尾は九尾より強い』という話が広まっても」
《…なんだと》
ざわりと毛が逆立つ。不快感を露にする九尾を、「だってそうだろう?」とナルトは涼しげな顔で見上げた。


「一尾、または一尾の人柱力が木ノ葉で暴れる。それはつまり、九尾が一尾に勝てなかったという事だ」
《人柱力同士が殺し合いをしようが、里が壊滅しようが、ワシには関係ない》
「世間はそう思わないだろうな。木ノ葉の里に九尾の人柱力がいるというのは世に知れ渡っている。一尾が木ノ葉を潰してしまえば、九尾は一尾を前に手も足も出なかったのだと見做される。いずれ忍び世界に広まり、そして語り継がれるだろう。『九尾の力は一尾に劣る』と」

わざと火に油を注ぐ。
激怒する九尾の姿に怯えるどころか、その怒りを益々膨らませるような物言いでナルトは言葉を続けた。
「九喇嘛は守鶴より弱いということだね」
《…貴様はワシを愚弄しに来たのか》
凄まじい形相で九尾はナルトを睨んだ。この身が封印されていなければ喰い千切ってやるものを、と殺気を放つ。九尾の強い眼光に射抜かれながらも、毅然とした態度でナルトはかぶりを振った。
「いいや。頼みに来たんだ」
九尾はナルトの顔を探るようにじっと見据えた。回廊全体を照らす間接照明が天井の雫をも飴色に染め上げる。飴色の世界で、ナ
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