暁 〜小説投稿サイト〜
Hidamari Driver 〜輝きのゆのっち〜
ゆののシルシ
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[1] 最後
 私立やまぶき高校のとある放課後。部活動に勤しむ生徒の声がグラウンドから聞こえてくるのとは対照的に、誰もいなくなった校舎内は西日によって朱く照らされていた。
「ごめんね、なずな。私の用事に付き合わせちゃってさ」
「ううん、いいの。乃莉(のり)ちゃんと一緒に帰りたかったから」
 不気味とすら感じさせるほど静まり返った廊下。リノリウムに敷かれた鮮やかな朱色の絨毯(じゅうたん)に、仲睦まじげに話す二人の女子生徒の影が長く伸びていた。
 ある教師に頼まれた雑用によって下校時間ギリギリまで残る羽目になった彼女達の名は、乃莉となずな。ここやまぶき高校と道路を挟んで向かい側に建つ小さなアパート、「ひだまり荘」に住まう一年生である。
「ありがと。じゃあ、ヒロさん達も心配してることだろうし、早く帰ろっか」「うん」
 自室で夕飯の支度をしてくれている先輩の顔を思い浮かべながら互いに(うなず)き合ったその時、彼女達の背中に聞きなれた女性の声が掛けられた。
 振り返ると、朱く染まった廊下の先に髪の長い女性が立っていた。制服とは異なる清楚な服装に身を包み、衣服越しにでも分かる美しいスタイルをしている――顔は影になっていてよく分からないが、きっと美しいに違いない。まさに美女と表現するに相応しい彼女がパステルカラーに彩られた廊下で一人佇む光景を前に、呼び掛けられた乃莉となずなは名のある画家の作品の中に入り込んでしまったのではないかとすら錯覚してしまいそうになる。
「よ、吉野家(よしのや)先生。どうしたんですか?」
 偶然が生み出した芸術にしばし見惚れていた乃莉が、おずおずとその女性に声を掛ける。
 二人を呼び止めた女性は美術科の教師である吉野家。その美貌や奇行から、美術科だけでなくやまぶき高校全体で名物教師として知られている。美術科に所属していることもあって、乃莉は最近彼女に何かと用事を頼まれることが多かった――この日、乃莉の帰りが遅くなったのも、彼女に頼まれ事をされていたからである。
 頼まれていた雑用に何か不備でもあったのだろうかと乃莉が思考を巡らせていると、吉野家はゆっくりと二人に向かって歩み寄りながら言った。
「ねえ、乃莉さん、なずなさん。あなた達、ヌードモデルに興味はないかしら?」
「「へっ?」」
 戸惑いから素っ頓狂な声を上げる二人を余所(よそ)に、吉野家は続ける。
「あなた達の身体を見ていると、創作意欲が湧いてくるの。大丈夫よ、悪いようにはしないわ。だから、ね?」
 ゆらゆらと近付いてくる彼女に、背筋が凍るような恐怖を覚えた乃莉は隣で固まっているなずなの手を引いて走り出した。よく知っている教師に対してそんな行動を取るのは少し躊躇(ためら)われたが、貞操の危機を叫んでいる直感に抗うことはできなかった。
 リノリウムの廊下を蹴る足音だけが聞こ
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