暁 〜小説投稿サイト〜
樹界の王
15話
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「クラッキングにおいての攻撃側には、多大なアドバンテージがあるんだよ、カナメ。ほら、こんな風に」
 中学三年生の時だった。
 由香は自室のマシンを用いて、ボクの目の前で他人のサーバーに侵入を果たしてみせた。
「映画で天才ハッカーが強固なシステムに対して侵入を成功させるようなものがあるだろう。あれの中で一番凄いのは、セキュリティシステムを構築した防衛側の方だよ。攻撃というものは開発者の意図をずらすだけで簡単に行う事ができる。防御側は全てのスケールにおいて、あらゆる事態を想定し、その対応策を実装する必要がある。その工数は、攻撃側のアセスメントを遥かに上回る事になる」
 そして、由香は攻撃用のソフトウェアを落として遊びを中断した。
「だから、まだ義務教育中の私ですら管理の甘いサーバーに簡単に侵入できるわけだ。これは機密性の高いシステムにおいても同様だよ。防衛側の意図したスケールの外から攻撃すれば、格下の攻撃者が重要なセキュリティを突破する可能性は常にあり得るんだ。例えば、その辺りを無数に走る自動車。その内部装置が無線で繋がっている事は知っているかい? まず、大多数はその事実を知らない。そして、知らない、ということはそれだけセキュリティが甘い、ということなんだ。事前調査さえあれば、この内部装置を遠隔操作してコントロール権を奪う事もできる。カナメ、できるんだよ。汎用的に用いられている社会の中枢システムを簡単に壊す事が」
 この時のボクは、コンピューターサイエンスについて正しい理解を得ていなかった。由香の言う事には懐疑的で、その矛盾を探していた。
「それが事実なら、何故テロに利用されてないのかな」
「既存の多くのセキュリティ問題を引き起こしているハッカー気取りのお子様たちの多くが、ハードの専門的知識を有さないからだよ。体系的に知識を吸収した人間の周囲には、それ以上の技術者が常に存在している。だから正しい知識を有している技術者たちは自己承認欲を満たす為に、くだらないハッキングなどしない。そうした悪戯は、課題をこなすレベルでしかないからだ。でも、私みたいな存在は違うわけだよ。優れた技術者と接触する機会がない為に、その技術を試したくなる。だから、こうやって試験的に実践を重ねていく。そうしないと、自分の腕の位置を測れないからだ。その一部は自らの腕を過信して、犯罪に手を染めていく。そうした犯罪者の多くの知識というものは、あまり体系的なものではないし、ソフトレベルのみの狭い範囲しか学習していないことが多い。だから、世界中に存在するハード的なセキュリティ・ホールというものは攻撃されづらい。メーカーもそれを理解しているから、保守性の向上の為に無線を利用し続けている」
「プロなら、可能だということ?」
 ボクの問いに、由香は頷いた。
「もっと巨
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