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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第六話 栄誉ある死か 恥辱の生か
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民を保護する事
そして大隊長として部下を殺させず内地に帰らせる事、だ。
 経文を唱える僧のような口調で呟く。
「そう、割り切る事だ。後は昇進してから考えろ」
 新城が頷くと豊久も苦笑して云う。
「――そうだな、悪いな。愚痴を聞かせて」

「いいさ、貴様に少なくとも良心があると分かっただけでも価値があるさ」
 ――ひどいな。
そういって明るく笑う、少なくとも回復したふり位はできるようになっているようであった。
「皆の様子は?」
兵藤を呼ぶ前に聞かせておくか。

「兵藤と杉谷は、ある程度割り切れている。
西田も大丈夫そうだ。理解して割り切ろうと考えている。
妹尾も迷いはあるが少なくとも衆民への有効性を理解している。
問題は漆原だ。あいつは感情的になっている。部隊の統率にも影響が出かねる程に」

「――そんなに酷いのか。」

「ああ、なまじっかお前を信頼していた分、裏切られた気持ちらしい。」
 ――上を見上げて真っ先に目に入ったのが大隊長なのだろう、動揺して視野が狭くなっている。

「裏切られた・・・ね。」
一瞬、痛切な表情が顔をよぎらせるが、馬堂少佐は即座にすぐにふてぶてしい笑みを貼り付けた。
「まぁいい、確かに作戦の責任者は俺だ。嫌われるのも覚悟の上だ。」

「やはり遅滞戦闘部隊の方に回すか?」
「そうしてくれ。顔を会わせる前に納得出来なくとも折り合い位はつけてもらわないと」
苦みの強い苦笑を浮かべながら言う。

「納得が出来なくても、命令が下れば実行する。
実行しないのなら処断される。それが軍隊だ。」
 ――漆原があのままなら処断も必要だ。
 そう露骨に示唆する首席幕僚に大隊長が向き直る。
「そして、その手の反発も考慮して令を下すのが指揮官の務めだ」
「だがいつまでもそうした贅沢は許されはしない」
 首席幕僚は冷厳に進言する。
「だが幸い今は正面からの殴り合いまでは時間があるだろう?
当分は真室川の渡河を妨害するだけだ。
その際に難民を見つけたら引き合わせてやってくれ
あぁ、できれば暴行された女性を連れた一行が良いな、あの手の青年には分かり易い」
 
「――今度は腑抜けかねないぞ」

「荒療治なのは百も承知だ、だが反抗的になるよりはマシだろうよ――兵藤をよんできてくれ」
かくして大隊は行動を再開した。

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