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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第五話 敗将の思惑 敗残兵達への訪問者
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皇紀五百六十八年 二月某日
東海洋艦隊旗艦内 北領鎮台司令部


「速やかに夏季総反攻作戦の作成にかかれ!」
北領鎮台司令長官 守原英康大将は焦っていた。
この北領に於いての大敗は皇国全体にとって以上に守原家の痛手となっていたのである。

 北領鎮台の司令官に守原家の次子にして当主代行である守原英康が任じられていた事から分かるように北領は事実上守原の領土であった。

 そして、北領の利益の独占は守原家の栄華を支えるのに十二分な権益を与えていたのだ。
それこそ太平の世であった四半世紀の間、護州鎮台と北領鎮台の二軍を保有しえる程に。

 だが、それは裏を返せば北領こそが守原家の生命線だと言う事である、北領から得ていた利益を失った事で守原の財政は長期に渡ると内地にて代々の領土である護州に置かれた護州鎮台の維持すらも困難な状況に陥ってしまった。
さらに、北領鎮台の惨敗と財力の大幅な弱体化により守原家の発言力は大幅に弱まってしまう、完敗を喫したばかりの帝国軍を相手に早期に勝利しなければ守原は五将家の座から転落してしまう可能性すらある。
 現在の状況を打開する為には、只一つ北領の早期奪還しか無いのである。
だが、それは五将家、否、皇国の持ちうる政治・軍事力の全てを使い、漸く可能性が見える夢であった。
 詰まる所、守原大将が精力的に反攻の策を作成させている理由は守原の権勢の保持の為であり、其処には表向きに掲げている皇国に対する大義は欠片も無く。
そしてそれが可能かどうかを考慮する事もなかった。

 ――こうして北領鎮台司令部は転進に関しては最早何も興味を示さず、水軍に転進支援本部を造らせた後はひたすらにこの無謀にして壮麗な反攻戦略の立案に全ての努力を集中していた。


二月十三日 午前第五刻 独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊本部 
大隊首席幕僚 新城直衛中尉

「助かったな」
 独立捜索剣虎兵第十一大隊 首席幕僚である新城直衛中尉は目を覚めて早々に細巻を吹かしながら呟いた。
――義姉が相手の淫夢を見て股間が凍傷になるなんて話は情けなくて笑い話にもならない――早々に目が覚めて助かった。

便所へと歩きながらこれからについて考える。

 ――大隊は真室大橋南方十里の地点に宿営している。
現在生き残った戦闘を行える士官は七人のみ、大隊長の馬堂豊久大尉、首席幕僚(本部には四人しか士官はいないが)の僕、新城直衛中尉、そして鋭兵の杉谷、尖兵の兵藤、剣虎兵の西田、漆原、妹尾。
皆が少尉だ、少尉が中隊を率い、下士官が小隊を率いている状態であり士官不足は致命的だ。 
更に猫は十匹しか生き残っていない、戦闘力を喪失していると言って構わないだろう。
幸いと言えることは、後方支援部隊が無傷で合流できた事、豊久が神経を尖らせ
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