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第一章〜囚われの少女〜
第十幕『ジャックの苦悩』
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 星空を背景に少年ジャック・ジンは、船の甲板で浮かない顔をしていた。その瞳は虚ろに、光のない夜空の色を映し出す。
「くそっ……なんで僕が――」
 夜の闇よりも暗い影が、黒服のその背中に渦巻いていた。それは少年の苦悩を物語っているものなのだろうか。それとも、自分の運命を呪っているのだろうか。時々こうして独りになり、丸眼鏡の奥で自分の生まれについて考える。忌まわしい記憶の一つを、こうして辿っていくのだった。

 少年には生みの親の記憶がない。ただ一つわかっていたことは、母親に捨てられたということだった。まだ計算も教わらないほど幼かったジャックは、雨の降る空港に一人、置き去りにされた。
 親を探す術を知らず、この場がどこなのかさえもわからず立ち尽くしていたことを、少年は茫然と思い出すのだ。こうして独りになり、考え事をすることで。
 今のジャックに声をかけられる者は、団員の中で一人としていなかった。それもそのはずである――先ほど重大な役に指名をされたジャックは、女嫌いを理由に悪態をついた。


――


「今回は俳優、姫の誘拐をどちらもしてもらわなくちゃいけない団員がいる。それはアンタよ、ジャック」
団長の言葉を聞いてジャックは耳を疑った。自分が女嫌いなのに、どうしてそんな事が言えるだろう。団長もそれを知っているはずだ。この役は自分は適任ではない。
 そしてジャックのした返事は――
「いやだ」
当然その場の空気は荒れた。「どうしてジャックに?」「ジャックよりもシドの方が向いてるんじゃ」「ジャックには無理だぜ」団員たちは口々に言う。それを聞くや否や、団長ライラはジャックを諭す。
「アンタしか、姫に近づける役はいないのよ。今回の演目を考えてごらん」
 オレリアで上演予定の演目は、『少年と小鳥』という話だ。今回ジャックは、その主演の少年を演じる。ジャックはこの盗賊団の最年少。この役をできるものはジャックしかいなかった。
「“少年と小鳥”――この演目は、オレリアの王女レナ姫が大そう好んでいらっしゃる、とのことで国からのリクエストだよ。主役の少年役は、舞踏会でレナ姫の隣の席に招待されているのよ」
だからレナ姫を誘拐するのはジャックが適役、というのが団長の言い分だった。
 しかしジャックは簡単にはその言葉を受け入れる事が出来ない。蒼の瞳は冷たく、団長の方を睨む。
「僕は王女を誘拐するなんて嫌だ」
 それはまるで駄々をこねる子供のような様でしかなかった。ほかの団員は皆、これには冷や汗ものだった。この中でこんなことを言えるのは唯一ジャックだけだろう――団長ライラは生物学上の男ではあるが、普段は女言葉を使う。しかし、それにはどこか品があり、その人の味となっていた。しかも抜群の統率力で団員をまとめている事から、その人格や人柄は、尊敬はしても
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