暁 〜小説投稿サイト〜
ブルース
第五章

[8]前話
「だからね」
「今度そっちの実家に行った時にか」
「そう、そうしましょう」
「何かそこまでか?」
「そう、天理教ね」
「うち浄土宗なんだけれどな」
「じゃあ浄土宗もよ」 
 妻は夫の言葉を逃さなかった、それでだ。
 その浄土宗の寺にも行くことになった、実際に天理教の教会にも行った。
 これでやっと終わったかと思えばまだあった、次は。
「教会だけれど」
「また天理教か?」
「違うわ、キリスト教よ」
 今度はこの宗教だった。
「イエス様にお祈りして十字架と聖書も貰って」
「キリスト教もかよ」
「そう、行きましょう」
「ううん、そうか」
 暁羅はここで気付いた、愛美がどう思っているのかを。
 そのうえで若松が結婚前に言った言葉を思い出した、それでだった。
 キリスト教の教会に行って暫く経ってからだ、こう若松に言った。
「ブルースを辞めたいんですが」
「よめさんが心配してるからか」
「口には出さないですけれどね」
 それでもだというのだ。
「もうあちこちの神様や仏様にお願いしてますから」
「ああ、それは間違いないな」
「相当心配させてますから」
 だからだというのだ。
「ですから」
「わかった」
 若松は暁羅の考えを受け取った、そしてだった。
「その申請は受けた、後はだ」
「後任が決まってからですね」
「正式にブルースを辞めることになる」
「じゃあそれで」
「パイロットはどうするんだ?」
「それもです」 
 空は危険に満ちている、このことも考えると。
「辞めようと思っています」
「現場から完全に去るか」
「逃げですかね、これは」 
 戦う場所から逃げることになるのではないかというのだ。
「やっぱり」
「自衛官の仕事はパイロットだけじゃないぞ」
 若松は微笑んで暁羅の今の言葉は否定した。
「むしろその他の方が多いだろ」
「だからですか」
「そうだ、だからな」
「他の部署で働いてもいいですね」
「むしろずっとパイロットでいられはしない」
 少しでも不適と思われると降りることになる、パイロットであるということは非常に難しいことなのだ。
「だからだ。それもだ」
「一つの選択ですか」
「御前はブルースでなくとも自衛官だ」
 まずそうだというのだ。
「だからそこで働け。奥さん達、そして国民の皆さんの為にな」
「わかりました」
 暁羅は航空自衛隊の敬礼で若松に応えた、そうしてだった。
 彼はブルースを去った、そして航空自衛隊の基地で幹部自衛官として働き続けた。ブルースでなくとも彼が自衛官でありその誇りを忘れず家族、そして国家の為に勤務し続けたのだ。


ブルース   完


                     2013・2・21
[8]前話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ