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男女美醜の反転した世界にて
反転した世界にて7
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もなく苦手であるから故に。
 一日に数十人の他人と会話を試みるというイベントは、すなわち苦行以外の何物でもなかった。――でもそれだったならば、僕も"ウザい"とまでは思わない。精々"疲れた〜"とか、"勘弁してくり〜"とか。誰が聞いても眉を潜めない程度の、無難な感情くらいしか抱くことは、無かっただろう。

「あのもやし女と付き合うって、いや、意味わかんね」
「……あっそ」
「気持ち悪くないの? あのもやし女が笑った顔、見たことある?」
「……(#゚Д゚)」
 
 これだよ。
 どいつもこいつも、口々に白上さんのことを悪く言う。恋人の悪口を聞いて、心中穏やかでいられる奴はいない。いたとしたら、そいつらは恋人同士なんかではないってことだ。
 もう一つ、次いでとばかりにはっきりと心中を暴露させてもらうと、とにかくムカついた。カチンと、来まくりまくっていた。
 ――かといって、そんな、僕の彼女に対する聞き捨てならない暴言の数々を、確かに耳にしたにも拘らず。僕は言い返すことができない。聞き捨てならない言葉を聞き捨ててる、正真正銘のクズだということが判明してしまった。
 機嫌の悪さをあからさまにして、質問には機械的な受け答えを以て返す。その程度のことで反発するしかできない、臆病で矮小な人間。それが僕だった。
 
「赤沢さんに彼女が出来たってマジ?」
「まじ」
「その彼女が白上さんって聞いたんだけど、流石に冗談だよね?」
「嘘じゃないよ」
「あのもやしの女と? いやいやあり得ないって。相談になら乗るから、ホントのこと言った方がいいって」
「あっそ」

 そろそろ、質問をちゃんと聞かなくてもパターンで応対ができるくらいに慣れてきた。
 そんな頃合いになって、僕は人垣の隙間から、恋人――白上さんの方を盗み見る。
 彼女は彼女で、これまた学年クラスの入り混じった女子生徒たちから、僕と同じように質問攻めの試練に晒されていた。
 ――会話の内容は、がやがやとした雑音にかき消されて全く聞こえなかったけれど。白上さんは僕とは違って、笑いながら話していた。
 それだけでほっこりとしてしまうあたり、僕は臆病で矮小で、そして単純な人間だった。
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