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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第三話 猫達の帰還、伏撃への準備
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皇紀五百六十八年 二月九日 午後第七刻 開念寺
独立捜索剣虎兵第十一大隊 第二中隊 兵站幕僚 新城直衛中尉


 新城直衛中尉が率いる第二中隊は当初の予定より一刻ほど遅れて大隊本部である開念寺に到着した。
 門前で出迎えたのは、衛兵と砲、そして彼らの貴官を見計らって細巻を吸いに外に出ていた大隊情報幕僚であった。
「やぁ新城中隊長、龍神の加護を得られた様で何より。」
 愛想良く出迎えた馬堂豊久大尉は、中肉中背で豪商の若番頭の様な顔つきをしており、普段はまるで軍人らしく見えない。 だが現在は疲労の色が濃く、前線の者らしい険しさを感じさせている。
 ――あの敗退ですべてが混乱しきった中で、事態を把握するべく奮闘し続けているのだから無理もないか。
 新城は観察を済ませると指揮官として口を開いた。
「馬堂大尉殿、僕は兵站幕僚ですが」

「若菜の後任に決まったんだよ。
まぁ大隊長から任命されたからとはいえども、まだ非公式だしな、兵站幕僚の方が良いか?
ま、正式な任命は本部で絞られてからになるだろうさ」
 他の幕僚達は荒れていたぞ、と先導しながら馬堂大尉が飄然と笑う。
後ろでは西田少尉達が小さく笑っている声が聞こえた。

境内に入った辺りで歩みを止めて唐突に尋ねてきた。
「一応訊くがあの報告はどこまで本当だ?」
かつて、人務部首席監察官附副官、情報課防諜室と内規を司る役職を渡り歩いた者だけあり、その言葉は鋭いものであった。
 ――事実上(・・・)は、僕の報告に嘘は無い。
 素早くそう考えると新城は答えた。
「はい、情報幕僚殿。全ての事実は、御報告した通りです。」

「成程、あの報告でも事実ではある訳だ。」
 無感情な半眼で新城を観ながら情報幕僚は言葉を続ける。
「大隊長殿もお待ちかねだ。
ようやく、一応まともな情報が入ったんだ、俺と同じ様な事を聞くだろうさ」
 彼にとって必要な確認を取れたと判断したらしく再び本堂へと歩き始める
「その前に兵達を。」

「それは俺の仕事じゃない、兵站幕僚殿に頼め。
彼は真室大橋まで街道の状況を確認すると言っていた、そろそろ戻ってくるはずだ」
そう言いながら堂々と欠伸をしている。

「部下に命じます。」
 猪口曹長達に向って任せたと頷き、馬堂大尉と共に本堂へと向かった。
「馬堂大尉、新城中尉、入ります。」
 本堂に居る幕僚達は新城に向って冷ややかな視線で迎えた、大隊本部で新城に好意的なのは、今ここには居ない兵站幕僚とさりげなく他人の茶を盗み飲みしながら席に戻っている情報幕僚だけである。

衆民出身の将校であろうと、新城を嫌うものが多いのは、単なる出自の問題ではないことをしめいしている。
 ――今更ながらあいつとは、二十年近い付き合いだ、まぁ少なくとも奴が
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