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ソードアート・オンライン 舞えない黒蝶のバレリーナ (現在修正中)
第一部 ―愚者よ、後ろを振り返ってはならない
第1章
第1話 黒猫
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――――――――2009年9月。
男は、車を動かすべくキーを回した。同時にモーターが動きだし、車体全体が小刻みに震え始める。
日はとっくの前に落ちていた。先ほど居た建物の明かりがわずかばかりにこぼれてきているが、車のヘッドライトだけが今は頼りだ。
目の前には鬱蒼とした森林だけが広がっていて、人間の介入を拒絶しているようにも感じられてしまう。それがひどく、男を不安にさせた。
すると、そんなものを打ち消すように後部座席のドアが開いた。同時に見えた人物の姿を確認して、無意識に顔がほころぶ。
「手伝おうか?」
「いいえ、大丈夫。ありがとう」
そう言いながら、今しがたドアを開けた女性――――男の妻である彼女は、朗らかに微笑んだ。そして車内に上半身だけを入れ、抱きかかえている子どもを、気を使っているのがありありと分かる程丁寧に、チャイルドシートへ降ろす。彼女はシートベルトが着いたかをしっかりと確かめると反対側へ周り込み、後ろのドアをゆっくりと開け、車内に乗り込んだ。
そんな愛しい妻の姿を目で追いながら口を開く。
「……ずいぶん嬉しそうだね?」
「ええ。だって、2人で描いた夢へまた一歩近づいたのよ」
「それもこれも……、“彼”のおかげだな」
「ええ、そうね。まだあんな歳なのに……」
途端憂いと情けなさが入り混じったような光を帯びさせ、妻は目を細める。苦しさが溶け込んだような表情をする妻をルームミラー越しに見た男は、唇を引き締めてすでに装着していたシートベルトを外した。体ごと後ろへ乗り出し、優しく脆いその女性のしっとりとした肌に、自身のゴツゴツとした手を寄せる。視線が絡み合い、もう少しで吐き出す息が掛かってしまいそうだ。
「気にすることない。“彼”は強い。良く出来た子だよ」
「“彼”は特別な才能を持っているのよ。私たちが思っているほど、簡単な子ではないわ。いつか、何かが起きそうで怖いのよ……」
「……ならば、そうならないように見守っていよう。この子の成長と一緒に」
強い口調で言い切ると、不安そうに瞳の奥を揺らしながらも彼女はコクリと頷いた。男は微笑み、妻の頬をもう一度撫でると、チラリと横で眠る息子を見る。
ああ、愛おしい。決して失いたくない。
腹の底から湧き上がる強い思い。グラグラと視界が揺れそうなほど、体中の血液が駆け巡る。
……今度こそ、守るのだ。自らが未熟なせいで犯してしまった罪は、もう消せはしないけれど。
男は妻に悟られぬよう拳を握りしめると、体を前へ戻した。体勢を整え、再びシートベルトを締め――――そこでハッと今朝の会話を思い出す。
「そうだ。翠さんはどうなった?」
「ああ、そうそう! あなたには言っていなかったわね」
彼女の様子を窺いながら話題を変えると、打って変って空気が明るくな
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