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椿姫
第四幕その一
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ッタはそれに頷いた。そして暫くして家の玄関の鈴が鳴った。
「もう来たのね」
 ヴィオレッタは玄関の方に顔を向けてこう言った。
「悪いけどこちらに呼んでもらえないかしら」
「わかりました」
 召使はこれに頷き部屋を後にする。暫くして彼女に連れられたフローラが部屋に入ってきた。
「お久し振りですね」
「ええ」
 ヴィオレッタはベッドの中から彼女に挨拶をした。フローラもそれに応じてきた。彼女はヴィオレッタのベッドの側に置いてあるソファーに腰掛けた。それから話に入った。
「有り難うございます。わざわざ来られるなんて」
「こちらも気懸りでしたから」
 フローラはにこりと笑ってこう言った。
「御身体はどうですか」
「身体は痛みますが気分は穏やかです」
 彼女は素直にこう言った。
「昨日は神父様に来てもらいました」
「如何でしたか」
「この憂いを消して頂きました。それで心が落ち着いたのです」
「それは何より」
「おかげで夜はゆっくりと休むことができました。そのおかげで今はとても気分がいいです」
「では御元気なのですね」
「少なくとも気持ちは」
「なら大丈夫です。きっとよくなりますよ」
 彼女もこう言ってヴィオレッタを慰めてきた。
「ですからお大事に。宜しいですね」
「はい」
 ヴィオレッタは頷いた。ここで外から何やら囃し声が聞こえてきた。陽気な声であった。
「あれは」
「謝肉祭を祝う声です」
 フローラがこう答えた。
「今日はパリ中がそれで大騒ぎでしてよ」
「そうなのですか」
 だがそれを聞いたヴィオレッタの顔は急激に萎んでしまった。
「どうかされたのですか?」
「いえ」
 彼女は元気ない顔で応えた。
「こんな日に一人で床に伏しているなんて。残念で」
「仕方のないことです」
 フローラはこう言ってまた彼女を慰めた。
「御身体のことを考えれば」
「けれど」
「けれどもこうしたもありませんよ。まずはお大事に」
「はあ」
「宜しいですね。そして来年一緒に行きましょう」
「行けたらいいですけれど」
「きっと行けますよ」
 そうは言いながらも何処か目が泳いでいた。やはり気持ちが何処か上滑りしている。

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