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椿姫
第一幕その二
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第一幕その二

「男の方ですか?それとも女の方ですか?」
「男の方です」
 ガストーネはそう答えた。
「男の方」
 ヴィオレッタはそれを聞いて一瞬であるが顔を顰めさせた。娼婦である彼女にとって男とは特別なことを意味しているのである。
「宜しいですね」
「はい」
 彼女は胸にある椿を確かめてからそれに応えた。
「今日は。宜しいですわ」
「わかりました。それでは」
「はい」
 ガストーネはそれに従い後ろに姿を消した。ヴィオレッタはそれを見届けながら一人心の中で考え込んでいた。これからの夜のことを。
(今日もまた朝まで二人なのね)
 仕事のことを考えていたのだ。
(それが私の仕事なのだから。そうしないと私は)
 ここで胸が急に苦しくなった。
「うっ」
「ヴィオレッタ」
 それを見たフローラが慌てて駆け寄って来た。
「一体どうしたの!?」
「いえ、何でもないわ」
 ヴィオレッタは無理に笑って気遣うフローラに心配をかけまいとした。
「ちょっとね。お酒にあたったかしら」
「じゃあもう休んだ方が」
「大丈夫よ」
 しかしそれは断った。そしてこう言葉を返した。
「もう大丈夫だから。それより」
「ええ」
「ガストーネさんの連れて来られる方はどんな方なのかしら。楽しみね」
「そうね」
 フローラもそれに相槌を打った。
「けれどそんなに心配する程のこともないと思うわ」
「そうかしら」
「あの方が紹介して下さった方は紳士ばかりだし。今までそうだったでしょ」
「ええ、まあ」
 それは他ならぬヴィオレッタが最もよくわかっていることであった。それに頷いた。
「だから気に病む必要はないわ。それより楽しみましょう」
「飲むの?」
「違うわよ。どうして貴女はそうやってすぐにお酒に向かうのかしら」
「すぐに逃げられるからかしら」
 寂しげな笑みを浮かべこう答えた。
「お酒を飲めば。何もかも忘れられる」
「そうなの」
「他にも理由はあるけれど。けれど私にお酒は似合ってるでしょう?」
「そういう問題じゃないと思うわ」
 だが彼女はそんなヴィオレッタに対してそう忠告した。
「お酒は。貴女みたいな飲み方をしていると身体に悪いは」
「それもいいのよ」
 その寂しげな笑いがさらに深くなった。そしてまた言った。
「どうせ。私なんかには」
「どうしてそんなことを言うの?」
「悪いかしら」
 今度はその寂しげな笑みをフローラに対して向けた。整った顔をしているだけにその寂しさはさらに人々の心に滲み入るものであった。それがさらにフローラの言葉も声も圧迫していた。
「けれどね」
「貴女の言いたいことはわかっているけれど」
「それじゃあ何故」
「見て」
 ヴィオレッタは辺りを指差しながらそう言った。今
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