暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第二部まつりごとの季節
第三十四話 千客万来・桜契社(上)
[1/6]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
皇紀五百六十八年 五月十六日 午後第三刻 小半刻前
桜契社大会堂 〈皇国〉水軍中佐 笹嶋定信


 水軍士官である笹島は陸軍士官の擁するこの会館に足を運ぶのは初めてであり、軍人貴族を象徴するかのような質実さと典雅さが複雑に入り混じった造りを興味深そうに眺めながら大会堂に足を踏み入れた。
「・・・・・・これは、なんとまぁ」
 待ち合わせ先の円卓に揃った面子を見て笹嶋は駒城保胤中将と新城近衛少佐、俘虜交換式でも帰還式典でも見たことがないほど畏まっている馬堂中佐――そして駒城篤胤大将が円卓についていた。敬礼を交わすと駒城の老公が深みのある声で少壮気鋭の水軍中佐を歓迎するべく新城へ視線を送った。
「直衛、お前の友人に紹介される栄誉を与えて貰いたいのだが」
「はい、殿様。此方は笹嶋水軍中佐です」
「笹嶋中佐?」
 わざとらしく目を見開き、笑みを浮かべると老練な政治家として知られる姿とは違った稚気が伺えた。
「成程、お前達が北領で共に戦った人物か?笹嶋君、噂は伺っておりますぞ。儂の末子と家臣が世話になったようですな。お礼を申し上げたい」
 白々しいがこれも儀礼の一種であった新城が駒城の末弟として紹介するのでもなければ大将と中佐か馬堂中佐(家臣)の友人と主家の当主として話す事になってしまう。
「それでは、儂の長男を紹介させて貰いたい」
「はっ、光栄であります」
 保胤中将もこうして紹介される事で中将ではなく貴人として扱われる。挨拶の交わしかただけでも形式次第では非常に面倒な事になるものである。
「それと君も知っているだろうが、馬堂家の嫡流である馬堂豊久だ」
「お久しぶりです、笹嶋中佐」
 将家の重臣らしく控えていた中佐とも礼を交わし、笹嶋は勧められた馬堂中佐と新城少佐の間の席につく。
 ――私が座っても席がまだ三席空いているが誰かが来るのだろうか?
「随分と居心地が悪そうだね。北領の時とは随分と違って見えるな」
 事情を知っているであろう隣に座った青年中佐に囁くと
「陪臣にとって、主家はある意味では皇族以上に分かり易い畏怖の対象なのですよ。軍務内や完全に私的な場なら上官か友人で通りますがこうした場では育預殿も主家に連なる末弟殿でして。ここでは皆様が目上なので私はひたすらに畏まるのみです」
と豊久もそう言って苦笑する。
「育預といえども末弟か。随分と私が知っている将家と違うな」

「はい、今は五将家の雄と言えど元をたどれば駒城は豪農から身を立てた家ですからね。そう言った家風なのですよ――ちなみに、私の家はそこの馬丁上がりです。」
 そう言って馬堂中佐がにやりと笑う。
「まぁ、主家がそう言っているのですから、然るべき人望があれば万事がその通りに扱われてもおかしくないのですが――本人の対人関係構築能力に問題がありまして、よ
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ