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ラ=ボエーム
第一幕その三
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第一幕その三

「うん」
「それが一体?」
「けれどまだ世の中はよくはなっていない。むしろ悪い資本家がのさばって利益を得ているってね」
「そりゃ商売だからじゃないのかい?」
「僕達だって芸術が認められればそうなるよ」
「けれどその話は違うんだ。革命を起こせって」
「あの革命をかい?」
 思わず声をあげた。
「そう、そして労働者の世界を作るんだって。そうした話さ」
「また極端そうな話だね」
「それを言っているのは誰なんだい?」
「マルクスだったかな。エンゲルスだったかな」
 彼は言った。
「その二人だったか。言っていたよ」
「随分過激だね」
「まあそのうち流行るかもね」
「僕はそれよりも愛を書きたいのだけれど」
「君はそれでいいのか」
「詩人だからね。何を書くっていうんだい?」
「言われてみれば」
 コルリーネはロドルフォの言葉に頷くしかなかった。
「詩人は詩人の、哲学者は哲学者のぶんがあるってことか」
「そうさ。まああたりなよ」
 ロドルフォは椅子を一つ差し出した。
「寒いだろうから」
「有り難う。それじゃあ」
 その申し出を受けて座ろうとする。だがここで扉が大きく開いた。
「やあやあお歴々」
 お洒落な感じに切り揃えた口髭を生やした男が部屋に入って来た。顔立ちは優しげであり、服装は貧しいながら見栄えに気を使っている。彼もまたロドルフォ達の仲間である。
 彼の名はショナール。音楽家である。カレーの生まれだがイタリアに留学し、そこで音楽を学んだ。そしてパリのカルチェ=ラタンでマルチェッロと知り合い彼等との共同生活に入った。仲間の間では洒落者として知られている。
「おう、大音楽家」
「どうも、大画伯」
 その誘ってくれたマルチェッロに挨拶を返す。
「フランス銀行が破産したよ」
「あの銀行がかい?」
「ギゾーの奴もヘマをしたな」
 この時代のフランスの首相である。保守派の大物であり、頑固なことで知られている。一方で歴史家としても知られている。あまり評判はよくない。
「いや、ギゾーではなく君達のせいさ」
 ショナールは笑ってこう言った。
「僕達のせいだって?」
「あそこにはお金は入れてないぜ」
 フランス銀行どころか何処にも入れる程余裕はないのであるが。
「いや、他ならぬ君達のせいさ」
 だが彼はまだ笑っていた。
「それがこの証拠さ」
 開けたままの扉に顔を向けて指を鳴らす。そして小僧達が部屋に入って来た。
「おお」
 三人は小僧達ではなく彼等が手にするものを見て思わず声をあげた。彼等はその手に薪や葉巻、そしてパンにワインを持っていたのだ。小僧達はそれを部屋に置くとショナールからチップを受け取り立ち去った。
「一体何をやったんだ!?」
 マルチェッロは驚いた顔で
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