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ラ=ボエーム
第四幕その五
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第四幕その五

「只今」
「お帰りなさい」
 ミミは力ない微笑で迎える。そこにムゼッタ達も戻って来た。
「ミミ、いいものを持って来たわ」
「何かしら」
「これよ」
 それに応えてマフラーを広げる。赤い大きなマフラーだった。
「これ。貴女にあげるわ」
「いいの?」
「いいのよ」
 ムゼッタは優しく微笑んでそれをよいと言った。
「けれどれってムゼッタが大事にしていたものよね」
「幾らでもあるから」
 それは事実だったが嘘も含まれていた。
「こんなマフラー。すぐに買えるわ。だから気にしないで」
「そう。それなら」
 ムゼッタは歩み寄る。そしてミミにじかに手渡した。
「いつも有り難う」
「御礼なんかいいって言ってるじゃない」
 ムゼッタももう泣きそうであった。
「私みたいな遊び人に。そんな言葉は似合わないわ」
「いいえ、私にはわかるわ」
 ミミはムゼッタを見て言った。
「貴方は。とても優しい人だから。言われる資格があるわ」
「よしてよ」
 それを聞いてまた泣きそうになる。
「柄じゃないから。本当に」
 マフラーを渡し終えるとミミに背を向ける。赤くなってきた目をみせたくなかったからだ。
「ロドルフォ」
 マルチェッロが彼に声をかける。
「お医者さんを呼んだから」
「済まないね」
「いいんだよ。ほら、これも」
 懐から何かを取り出した。
「気付け薬だよ、ミミに」
「有り難う」
「こんなことしかできないけれどな」
「いや、充分だよ」
 ロドルフォの微笑みはこの上ない優しいものとなっていた。
「ミミも。喜んでくれているから」
「ああ」
「これは誰のお金なんだい?」
「僕のだよ」
 コルリーネが答えた。
「たまたまお金があったのを思い出してね」
「そうだったのかい」
「そうだ。本当に運がよかったよ」
 外套のことは隠していた。
「僕も運がよかったからミミも」
「うん」
 ロドルフォはそれに頷く。
「きっとね」
「ああ、きっと」
 ムゼッタは窓の方に来ていた。そして言う。
「私はこんな女だけれど」
 空を見上げていた。
「神にお許しなんてできないけれど」
 自分のことは自分がよくわかっているつもりだった。遊び人で派手な女だということも。だがそれ以上に彼女もまた人間であったのだ。優しい心を持つ人間だったのだ。
「けれどミミは。ミミは違うから」
 心から祈っていた。
「どうか。助けて下さい」
 その心は純粋だった。純粋に神に祈っていた。
「なあ」
 ロドルフォは周りにいる仲間達に声をかけてきた。
「希望って言葉・・・・・・知ってるよな」
「ああ」
「それがどうかしたんだい?」
「希望は常にあるから。だから僕は」
「私の側にいてくれるのね」

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