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ワンピース〜ただ側で〜
第9話『帰郷』
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のに」

 タバコを加えて。

「って、あら? また見ない顔だわ。今日は珍客が多いわね」

 少し斜に構えた態度で。

「で、なにかご用?」

 少ししわの増えた、けれどまったくといっていいほどに変わってない顔で。

「……ぅ」

 やべ。

「ちょ! ちょっとちょっと! 急に泣かないでくれる!? 私が泣かせたみたいじゃないの!」  

 でも、止まらない。
 止まらなかった。

「ぅぅ」
「あぁ、もう! いい大人がみっともない! お茶出してやるから入りなさい!」

 俺を促して、キッチンに向かうその足取りすらもなつかしくて。
 だけど、このままじゃ何もいえないから。
 ただいま、と素直に言うことすらどうしてか憚られて。

「みかんって……本当に、肌のつやを保ってくれるん、だね」

 声をつまらせてそう言うのが精一杯だった。
 だけど、それだけでもう伝わった。
 これは俺やナミやノジコとベルメールさんの――

「え?」

 ――親子の会話だから。

 信じられないほどの勢いでベルメールさんがこちらを振り向いた。
 唇を震わせて、まるで人形みたいな動きで近づいてくるベルメールさん。本当なら笑えるはずの動きなのに、どうしても涙が先に出そうになる。

「あなた……もしかして」
「うん」
「ハン……ト、なの?」
「うん」

 そう。

「胸を撃たれて……海に捨てられた?」
「うん」

 そうだったなぁ。

「私の命を救ってくれた?」
「うん」

 あの時は実に必死だった。

「……親より先に死のうとしたバカ息子の?」
「うん! ……うん?」

 ……あれ?

「どの面さげて帰ってきたこの親不孝な放蕩息子ぉぉぉぉ!」

 え、あれ?
 こう、抱き合って感動的な、さ?
 そういう場面じゃ――

「――って待った待った! 包丁向かってこっち来るって何考えてんだみかんばばぁ!」
「うっさいわ! 誰がばばあだ! んでみかんの妖怪みたいに言うな!」
「……」
「……」

 じっとにらみあう俺たちだけど、そんなものは当然長く続かない。ベルメールさんが包丁を置いて、そっと俺を抱きしめてくれる。暖かくて、みかんのにおいがして、たばこのにおいだってして。

「おかえんなさい、ハント」
「ただいま、ベルメールさん」 

 俺は、帰ってきたんだ。
 ココヤシ村に。


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