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マノン=レスコー
第三幕その四
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第三幕その四

「それでもいけません」
「一体何の騒ぎだ?」
 市民達の声が大きいのを聞いて船長が船から出て来た。そして軍曹に問うてきた。
「随分騒がしいが」
「あっ、これは船長」
 軍曹は船長に身体を向けて敬礼した。
「実はこちらの騎士殿が囚人の一人と流刑地に行きたいと仰っていまして」
「君がか」
 船長は桟橋から港に降りてきた。そのうえでデ=グリューに声をかけてきた。
「そうです、僕です」 
 デ=グリューは毅然として彼に応えて述べた。
「流刑地に行きたいというのか?」
「そうです」
 彼は答える。
「彼女と、マノンと一緒に。お願いします」
「馬鹿なことを」
 船長は彼の言葉を聞いて溜息と共に首を横に振った。
「植民地はあまりにも過酷だ。原住民もいるし常にイギリスが狙っているというのに」
 それは当時のアメリカであった。独立していないのは言うまでもなくイギリスとフランスの対立もそこにはあった。原住民、即ちネイティブ=アメリカンもいた。彼等はおおむねフランスには好意的であったがそれでも敵対する部族もいないわけではなかったのだ。当時のアメリカは全くの無法地帯なのであった。
「行っても命の保障はないぞ」
「それでも。構いません」
 しかしデ=グリューの決意は変わらない。
「ですから僕を彼女と一緒に」
「狂っている」
 船長はそんな彼に対して呆れて言った。
「全く以って狂っている」
「そう、僕は狂っているんです」
 デ=グリューはそう言い返す。
「ですからお願いします。どんな仕事でもします、ですから僕を彼女と一緒に」
「そうだそうだ」
 また市民達が言う。今度は船長に対して。
「船長さんお願いしますよ」
「その騎士さんに免じて」
「どうか彼を恋人と一緒に」
「ううむ」
 船長は彼等の話を聞いて難しい顔になった。そのうえでまたデ=グリューを見た。
「君は騎士なのだったな」
「はい」
 デ=グリューは答える。
「騎士に卑しい仕事はさせられない。しかしだ」
 彼は言う。
「丁度若い見習い士官が他の船に移ってしまってな」
 これは嘘である。彼は今咄嗟に嘘をついたのだ。
「欠員が一人いる。だから」
「では僕を船に」
「そうだ。だが船の生活は辛いぞ」
 デ=グリューを見て念を押す。この頃の船も航海も大航海時代よりはかなりましになっているがそれでも辛いのは変わってはいない。しかも新大陸までだからかなりのものである。しかも見習い士官といえば奴隷のようなものである。その苦労は半端なものではない。これは今でも変わりはしない。若い士官は船長にとってはまさに召使なのである。
「それでもいいな」
「構いません」
 デ=グリューはそれを苦にしようとしない。むしろマノンと共にいられるとい
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