暁 〜小説投稿サイト〜
【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
エル・ファシル騒乱(後)
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
のは帝国軍の大軍だ。増援は間に合わなぬし、守備隊が民間人を脱出させるにしても包囲網を突破するだけでどれだけの民間船がやられることか!」
「だから、ご安心下さい、と言っています」

 フロルの自信は、まったく揺らいでなかったのである。同盟の雰囲気は、今最低の底を突いていたと言えるであろう。好戦的な者も、平和主義者も、一様にエル・ファシルを突如襲った災厄に同情し、いとも簡単に敗北した同盟軍を罵倒しているのだ。
 だが、そんな中にあっても、フロルのヤンへの信頼は揺らぐことはなかった。フロルにしてみれば、自分はユリアン以上にヤン教の信者なのだった。例え世界がヤンに反旗を翻すとも、ヤンが軍事的に負けることはありえないと信じているのだ。

「私は私の持ちうる情報網を使って、現状を確認したのです、閣下。現在守備部隊は逃走の準備に入っています」
「当たり前だろう、篭城などできるわけがないのだから」
 グリーンヒルも、目の前の大尉の、自信に満ちあふれた態度を見て、その気持ちを鎮めた。この男は、いったい何を言いたいのだ?

「守備部隊は近日中に逃走するでしょう。……恐らく、民間人300万を置いて」

 この言葉に対するグリーンヒルの返答は絶句だった。それもそのはずである。ただでさえ、エル・ファシルでの敗北によって軍部に批難があるにもかかわらず、司令部が本来守るべき民間人を放置して逃げるとわかれば、その批難は強烈極まるものになるだろう。

「ですが、民間人脱出計画を実行する男がいます。その男は士官学校出の無名の中尉ですが、彼がそれを成功させるでしょう。実を言うと、この男は私の後輩でしてね」
 フロルは目の前で固まったままのグリーンヒルを前にして、小さく笑いかけた。
「私は彼という男を知っています。ヤン・ウェンリーという男を。私以上にあの男を理解している奴はいないでしょうな。彼は必ず、民間人300万を脱出させるでしょう」
「だ、だが、守備部隊もいない状態でどうやってそんな芸当ができる!」
「彼のことです。彼はなかなか気のいい奴なんですが、なかなか辛辣な奴でしてね。恐らく民間人を見捨てた司令部を囮に使って、民間船を上手く脱出させるでしょう。たとえば、司令部とは逆の方向に、レーダーに故意に映るようにしてわざとらしく逃げ出してね」
「レーダーに?」
 グリーンヒルは言葉を繰り返す。
「帝国軍はどう思うでしょう。大量の船が、レーダーにこれ以上なくはっきりと映りながら逃げ去るのを見たら? 恐らくただの隕石群だと思うでしょう」
「そんなあやふやな方法で!」
「だからこそ司令部が敵の注意を惹き付けてくれるのです。あまり褒められた話ではありませんが、逃げ出した司令部のおかげで、民間人300万が助かるという、軍にとっては都合のいい話ができあがるでしょう」
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ