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【旧】銀英伝 異伝、フロル・リシャール
士官学校
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いはその隣にいる寝ぼけたような青年、ヤン・ウェンリーが原因のことが多いのだ。
 当時のヤンの評価は恐ろしく低かった。それもそのはず、彼は自ら進んで戦史研究科を選び、実技など面倒なものにまったく励まぬ、それこそ軍人の風上にも置けぬ落ちこぼれと思われていた。もっとも人を見る目のあるシトレには、そこまでの悪感情を持ってはいない。ただ、軍人としては向かない人間なのだろう、くらいには考えていたが。

「ヤンは誰よりも戦争とか人殺しのような愚行は嫌う男ですがね、なかなかどうして戦争をやらせると上手くやるタイプですよ。それに優等生を鼻にかけて肩で風を切って歩いているようなワイドボーンに、将器があるとは思いませんね」
「将としての器か」
「校長もここを勤め上げたらまた出世街道に戻るんですよね。ヤンとラップには目をかけてやってください。あいつらは化けますよ」
「儂はなんやかんやでお前も買っているんだがな」
「買いかぶりです。俺なんて二流もいいとこですよ」
 シトレはそこで思わず、といった表情で笑いを零した。昨年彼に破れ、準優勝に終った首席の優等生などが聞いたら、泣いて悔しがるだろう。

 果たして決勝戦は、ヤンとワイドボーンの戦いとなった。
 ラップはヤンと途中で当たり、ヤンに敗れたのである。そしてそのラップも、今はフロルやシトレの横で、決勝戦を観戦している。

「で、どうだ、ラップ? ヤンとの対戦は?」
「いやぁ大変でしたよ、ヤンの奴、なんやかんやで強いと思ってましたが、真っ正面から戦うとそれを実感しますよ。こちらの弱いポイントを見抜き、集中砲火、スピードを使って攻め立てるタイミングと、防御によって時機を見極めるセンス、さすがヤンです」
「ははは、それはあいつを褒め過ぎだ」
 フロルは思わず苦笑い。シトレも、最初は信じられなかったヤンの際立った用兵の能力を信じるようになりつつあった。
「リシェールが言っていたことも、あながち嘘ではないということか」
「嘘だなんて酷いな! 俺は嘘をついたことがないんですよ!」

 フロルのジョークはこの時代には受けなかったらしい。気まずい沈黙。

「……俺は前から言ってるでしょう。俺なんてヤンに比べたら凡才ですよ」
 ラップはこのとき、心中でこう考えていた。では、このフロル先輩にも劣る俺はいったいどれだけの才を持っているのだろうと。
「それにしても先輩、よくヤンをやる気にさせましたね?」
「ん? ああ、今回の試合か?」
「ええ、あいつがこんなに真面目にやるだなんて、俺はそっちの方が驚きですよ」
 するとフロルは意地の悪い、彼特有の笑みを浮かべ
「いろいろ、やったんだよ」
 と嘯いた。

 実は数日前、彼はヤンと取引をしていたのである。もしヤンが優勝したら、フロルの父が趣味で揃えてい
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