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さまよえるオランダ人
第三幕その二
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第三幕その二

「幽霊だったら何も食わないし何も飲まないさ」
「そうそう」
「だから。そんな馬鹿なことある筈ないじゃない」
「冗談も程々にしたら?」
「ねえそちらの方々」
 娘達はオランダ人の船に対して声をかける。
「早くこっちに来て」
「御馳走もお酒もあるわよ」
 しかしその言葉に対する返事は何もなかった。何もないまま沈黙だけが支配した。娘達もそれを見て遂に船乗り達と同じことを思うようになった。
「やっぱりこれは」
「あの船にいるのは」
「なっ、幽霊だろ?」
「そうだろ」
 船乗り達はここぞとばかりに娘達に言うのだった。
「さまよえるオランダ人の話は本当だったんだ」
「あの船こそが」
「そうだったら」
 娘達はさまよえるオランダ人の話を聞いてその顔を一斉に青くさせた。彼女達もその話は知っていたのだ。海の携わるのなら誰でも知っている話だった。
「大変よ、起こしたら駄目」
「若しそのさまよえるオランダ人だったら」
「おおい」
 だがここで船乗りのうちの数人がオランダ人の船に声をかけるのだった。
「一つ聞いていいかい?」
「君達に聞きたいことがあるんだ」
 こう彼等に対して尋ねるのだった。
「君達は海で岩や岩礁に困らないのかい?」
「どうなんだい?」
「やっぱり」
 娘達は返事がないのでまた確信するのだった。
「返事はないし灯りもない」
「どういうことなの?」
「手紙はないのかい?」
 船乗り達はまた彼等に問う。今度は数が増えていた。
「だから彼等は幽霊だから」
「もう」
「帆をあげてみないかい?」
 水夫達はまた船に問う。
「さまよえるオランダ人の船の速さを見せてくれ」
「早くな」
「だから止めてって」
「何が起こるかわからないわよ」
 娘達はいい加減怖くなって船乗り達を止める。
「わし等でやるか?じゃあ」
「そうするかい?」
「どうしたらいいの?」
「やっぱりここにいたら危ないんじゃ」
 娘達は不安な顔になって言い合う。不安と恐怖が彼女達の胸を支配していた。
「帰った方が」
「何を言ってるんだ」
「怖気付くなんてな」
「おおい、こっちに来てくれ!」
 また彼等は声をあげた。
「お隣さん、早くこっちに来な!」
「お酒に御馳走があるぞ!」
 こう歌って勧めるのだった。やはり足をステップさせている。
「見張りを止めてこっちに来て楽しくやろう!」
「塩水じゃなくて美味い酒を飲もう!だからこっちへ!」
 そう歌っているとここで。遂にオランダ人の船に灯りが宿った。しかしそれは青白い、朧な火だった。その火を見て船乗り達も娘達も驚きの声をあげた。
「あの火は」
「やっぱり」
 確信が断定になったその瞬間に。オランダ人の方から不気味な声が聞こえてきた
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