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メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
メディスン・メランコリー 〜無名の丘〜
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…〜 妖精と人形 〜…












鈴蘭の花言葉。それは

『純潔』『純愛』『繊細』『意識しない美しさ』『幸福の訪れ』そして―――





 冷たい。それが真っ暗な世界の中で私が初めて思った言葉。

瞳を閉じている私に、ひんやりとした風が私に吹き付けてくる。体を触られているようであまり気持ちが良いとは言えなかった。以前に誰かはこの風を「気持ちがいい」と言ってたけど。私にはよくわかならい。それと、さらさらと何かの音も聞こえる。風に揺られる何かの音だ。その音は風と共に永続的に続くようで少し耳障りだった。僅かに何かの匂いを運んできている。私は自分の感覚を研ぎ澄ませた。上の方で何かが僅かに光っている。

私は初めて瞳を開いた。初めて見た景色は緩やかに風が吹き抜ける満月の夜で、草原に混じり疎らに咲いている鈴蘭があった。
辺りを見回して、現在自分がいる状況を確認する。月明かりが鈴蘭を照らし、風に揺られ僅かに輝きを放っているように暗闇に浮かび上がっている。初めて見る景色を見つめ、私は岩に足を投げ出し、寄りかかっていた。
どれだけの時間ここに座っていたか分からない。だけど、きっとすごく長い時間ここに居たようだ。昔は綺麗だった服がボロボロになっていたからだ。だけど、何故ここにいるのか分からない。少し深く呼吸をしてみる。ほんのりと甘い香りがした。

 これは・・・鈴蘭の匂い・・・。

思ってはみたものの、そこまで明確な興味はなかった。鈴蘭を見たことで、昔の記憶をぼんやりと思い出してきた。
彼女にプレゼントしたかったからだ。私は手に持っている鈴蘭を抱えて、歩いていた。その途中で出会ったのだ。金色の髪をして、紫色の服を着ている、小さな小さな妖精に。そうして私は彼女と出会い、話すようになったのだ。とは言ったものの、彼女は自分から喋ることは出来ないので、私が喋りかけていただけだ。
それからの記憶はない。断片的に色々な風景や人物を思い出すが、よく分からなかった。分からない。何も思い出せなかった。私が何者なのか、何故ここにいるのかも、ここがどこなのかも、何も分からなかった。このことに関して私は特に何も思わなかった。そういうものなのだと理解した。その時の私は自分が何者なのか、何故ここにいるのか、ここがどこなのか、どうでもよかったから。
私は周りの地形を把握しようと首を動かそうとしたが、動かなかった。どうやら今動かせるのは目蓋だけのようだ。
何も感じることが出来ない私は、ただ目の前に広がる景色をじっと、ずっと眺めていた。雲に隠れた月が再び顔を出したとき、自分の手足を照らし出す。動かない手や足の間接には切れ目があった。私は理解した。

 そっか。私は人形なんだ・・・。

様々なことを考えたが、全てが瑣末な
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