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髑髏天使
第一話 刻限その四
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「持っていくといい」
「お借りして宜しいのですね」
「返してくれればいい」
 教授はまた答えた。
「返さねば取り立てるだけじゃしな」
「取り立てるのですか」
「本は宝物じゃぞ」
 学者らしい言葉であった。
「一冊たりとも無駄にしてはならん。違うか」
「それは確かにそうですが」
「それでじゃ」
 教授は牧村にさらに言ってきた。
「一応一週間でな。それでよいな」
「わかりました。それでは一週間お借りします」
「ではそれで話は終わりじゃな」
「はい。それでは」
「うむ。また会おう」
 こうして牧村は教授の書斎の一つからその本を借り研究室を後にした。教授は扉が閉められるのを見届けてから一人呟くのだった。
「やはり今年か」
 呟いた後で本に目を戻したのだった。ラテン語で書かれたそこに何があるのかは教授にしかわからない。しかし確かなことがそこにはあったのだった。
 牧村が教授の部屋から本を借りて六日になった。この日も彼はサイドカーで登校していた。講義が終わりサイドカーに乗ろうとすると胸のポケットに入れている携帯が鳴った。
「んっ!?」
 携帯の音はモーツァルトだった。レクイエムの怒りの日である。銀色の携帯からそれは鳴っており開くとメールが届いていた。それは。
「あいつからか」
『こんにちは、お兄ちゃん』
 まずはこう書かれていた。彼の妹である未久からだった。
『今日塾の帰りよかったら』
「迎えに来て欲しいんだな」
 妹の考えはすぐにわかった。何故彼になのかもすぐにわかったのだった。
 何故かというと彼がサイドカーを持っているからだ。その横に乗るのも好きだししかもそれで周囲から注目されるからだ。しかも牧村は彼女の友人達の間では格好のいいことで知られておりささやかな自慢である。彼女にとっては実にいいことづくめだからだ。
「そういうことか。それじゃあ」
 返信を送った。いいということだった。それを受け取ってから彼は携帯を収めた。それから行く先はまずは家だった。高層マンションの三階にある己の部屋に入るともうそこには母親がいた。四十代半ば程度の穏やかな顔と黒く長い髪を持つ女性である。
「只今」
「あら、来期」
 母親は彼の名を呼んで意外そうな顔を見せてきた。
「早いのね、今日は」
「早いか?」
「いつもはもっと遅いと思うけれど」
 笑いながら牧村に言葉を返すのだった。
「そこのところはどうかしら」
「それは母さんの主観だろ?」
「そうかしら」
「いつも真面目に帰ってるさ」
「サイドカーに乗ってる時はそうね」
 母親は少し考えた顔になってから我が子にこう述べた。
「そういえばそうね」
「乗っていて酒は飲まないさ」
 そうしたところには真面目と言える牧村であった。言葉には真剣さもある。

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