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髑髏天使
第二話 天使その七
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「では。難しい話は止めじゃ」
「飲むのに専念するんだね」
「飲めればそれで幸せじゃ」
 真の酒好きの言う言葉であった。
「だからじゃ。もう一杯」
「わかったよ。じゃあ」
「うむ」
 彼等はこの夜は飲み明かした。それが終わった時は朝だった。九時になってようやく椅子で寝ている自分に気付いた博士に影の一つが声をかけてきた。
「ねえ博士」
「何じゃ?」
「来るよ、彼」
 こう囁いてきた。目を醒ましても特に辛くはない。どうやら二日酔いをしない体質のようである。人によっては非常に羨ましがる体質である。
「もうすぐここに」
「ふむ、来るのか」
 博士はその言葉を聞いて考える顔になった。昨夜飲み明かしたとは思えない程元気のいい顔であった。やはり酒は残ってはいないようである。
「ここにのう」
「それでどうするの?」
 影は今度は問うてきた。
「彼。多分かなり悩んでいるだろうけれど」
「悩みは消されるべきものじゃ」
 博士はすぐにこう答えた。実にあっさりと。
「それもすぐにな。悩むのもいいがそれは長く続いてはならん」
「そういうものなんだ」
「そうじゃ。長く悩めばそれは病となる」 
 精神医学的な言葉であった。
「だからじゃ。それはならん」
「じゃあ言うんだ」
「そうじゃな。ただし」
 ここで博士は考える顔を見せた。
「少し細工をしよう。これでよいか」
「細工って?」
「だからじゃ」
 ここでまた言う博士であった。
「わしがいきなり天使の話をしたらおかしいじゃろうが」
「まあそれはね」
「博士只でさえおかしいし」
「こらっ、何を言うか」
 影達の今の言葉には口に泡を作って抗議する。
「わしの何処がおかしいのじゃ。言っていいことと悪いことがあるぞ」
「だってねえ」
「悪魔博士じゃない」
 この大学での博士の通り名である。その研究内容と容貌からこう呼ばれているのだ。確かにその異様な癖の白髪と長い白髭はそう言わせるものがあった。
「それでどうしておかしくないって言えるのさ」
「おかしくないっていうのなら怪しい?」
 こうも言われるのだった。
「博士って何か人間っていうよりも」
「僕達に近いじゃない」
「近いというのは認めるぞ」
 それは認める博士であった。
「わしものう。これでかなり御主等と付き合いがあるからのう」
「本当に長いよね」
「一体どれだけだったっけ」
「七十年か?まあそれはよいのじゃ」
 とりあえずこれは大した問題ではないとした。
「それでしゃ」
「うん」
「あれだよね」
「そう、あれじゃ」
 これで話が進んだ。
「ここはちと芝居を打つぞ」
「芝居?どんな?」
「まずわしは隠れる」
 博士は最初にこう述べた。
「わしはな。ついで御主等もじゃ」

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