第一話 刻限その一
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女に声をかけられてすぐに応えた。
「今日もあのサイドカーで登校したの?」
「雨の日以外はな」
また女に応えた。態度はかなり素っ気無く表情も乏しいものだ。
「いつもだと思うがな」
「そうね。じゃあ今日は誰を隣に乗せたの?」
「別に誰も」
やはり素っ気無い返事だ。
「妹を家に送る時に乗せるだけだ」
「今日も妹さんだけなのね」
「別に誰が乗ってもいい」
それについてはあまりこだわっていないようである。言葉にそうした感情が出ていた。
「空いている時ならな」
「じゃあ今から私が乗っていいかしら」
「悪いがそれは無理だな」
しかし今度はこう応えたのだった。素っ気無さはそのままに。
「残念だな」
「あら、嫌いなのかしら私が」
「違う。用事がある」
それは否定してこう述べたのだった。
「大和田教授はいるか?」
「大和田教授!?ああ」
女はその名前を言われて己の記憶からふとある名前を思い出したのだった。そしてそのうえでその名前を口に出すのであった。
「悪魔博士ね」
「そうだ。いるか?」
「相変わらずあの研究室に篭ってるわよ」
くすりと笑って男に答えたのだった。
「何でも今度はウィーンの図書館から面白い本を手に入れたんだって」
「またか」
「そう、また」
言葉が返る。
「この前はロンドンで今度はウィーンだけれどね」
「英語にドイツ語か」
「そうだとは限らないのがあの博士だけれどね」
言葉が笑っている。見れば顔もそれに同じになっている。
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