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崖に落ちても死ななかった
第一章

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                崖に落ちても死ななかった
 鈴木豊は普通のサラリーマンで夫であり父親である、長方形の顔で小さな目で黒髪を短くしている一七三位の背で中肉である。
 仕事ぶりも家庭でも普通で趣味はテレビゲームと読書と酒である。酒も適量で乱れることもなく浮気もギャンブルもない。
 だが妻の渚黒髪をショートにした大きな目と愛嬌のある唇と大きな耳を持つ一五三程の背で胸の大きな彼女も娘で中学一年の雪子母親そっくりだが髪の毛を長くしている彼女も彼についてこう言うのだった。
「普通じゃないわよね」
「そうよね」
「お父さんどう見ても」
「ちょっとね」
「いや、普通だろ」 
 豊はこう家族に返すのが常だった。
「お父さんは」
「いや、子供の頃車にはねられたのよね」
「それも三回も」
「それで無傷で」
「病院でも手当受けなかったのよね」
「それはそうだけれど」
 豊はこのこと自体は認めた。
「確かに」
「それは普通じゃないから」
「車にはねられて何もないって」
「それも結構凄かったらしいし」
「それでも平気ってね」
「そうかな、普通だよ」
 彼自身はこう言う、だが。
 家族はそうは思わなかった、そして。
 ある休日山に家族でピクニックをしてバーベキューを焼いて一緒に食べて楽しんでその帰りの時にだった。
 ふとだ、目の前にだ。
 崖があった、彼が気付いた時にはもう遅く。
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