第三章
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「あの人の方がいてくれたら」
「よかったかもな」
「そうかもな」
榎本武揚、後に五稜郭で名を馳せた彼のことも話した、兎角今回の航海で勝は船酔いばかりで何も出来なかった。福沢はそんな彼を内心役立たずと思うばかりだった。
それでハワイを経てだった。
遂に西海岸に着いた、そして。
港に入ると錨を下ろした、するとだった。
それまで全く動けなかった勝がだった。
いきなり出て来てだ、船のロープを伝って人々の上に立ってそうして言った。
「やったな、着いたぜ」
「はぁ!?」
福沢はその彼を見てだった。
思わず声をあげた、だが勝はその彼を見ることなくさらに言った。
「おいら達はやったんだ、このことは誇っていいな」
「いや、何言うてるんや」
福沢は呆れ怒って言った。
「あんた何もしてへんやろ」
「おい、それは」
「聞こえてへんわ」
隣にいる同僚に返した。
「そやからな」
「言っていいか」
「聞こえても何や」
構わないというのだ。
「ここにおる皆が知ってることや」
「だからか」
「好きなだけ言うたるわ」
「お主怒ってるな」
「怒ってるわ」
その通りだというのだった。
「そらな」
「これまで何もしてなくてか」
「それで船が着いたらや」
そうすればというのだ。
「ああしてや」
「言うからか」
「調子よくな」
実に忌々し気に言った。
「よお言うわ」
「それはな」
同僚もそれはと答えた。
「それがしもな」
「思うやろ」
「うむ」
否定しなかった、頷いての返事だった。
「何しろだ」
「これまでずっと船酔いしてな」
「動けなかったからな」
「それが事実やからな」
「今ああしてだ」
「調子のええこと言うてもや」
福沢は今もロープを伝って上がって威勢のいいことを言っている勝をこめかみをひくひくとさせながら見上げつつ言った。
「実際はどうか」
「それが何よりも語っているな」
「そや、ほんま何言うてるんや」
福沢はまた言った。
「こんなおっさんわし嫌いや」
「そうなのか」
「ああ、ほんま口だけや」
こう言って勝を見続けた、そしてだった。
福沢は生涯勝を認めなかった、それが何故かと聞かれるといつもこの話を出したという。そのうえで。
彼は日清戦争をやるべきでないという勝を冷たい目で見てから知人の若い海軍士官に対して言った。
「十二分に戦ってきなさい」
「はい、日本の為にそうしてきます」
士官は福沢に強い声で答えた。
「そして勝ってきます」
「この戦争に負ければ日本はない」
「まさに存亡を賭けた戦いです」
「誰かが何か言ってもだよ」
勝のことを意識して言った。
「それが事実だ、若し君に何かあっても」
「そ
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