暁 〜小説投稿サイト〜
お兄さん。オレのあいさつ……無視したよね?
(7)

[8]前話
「ま、まさか、それだけのために十二年も――」
「あー! すっきりした!!」

 子供、いや、あのときの子供の幽霊は、進の言葉をさえぎると、両手を天に突き上げ、伸びをした。
 その手の先は、雲がわずかに割れ、光が差し込み始めていた。

「じゃあね。お兄さん」
「ちょ、ちょっと待って。もう会えないのかな?」
「うん。会えませんよ。さようなら」

 あっさりとした別れの言葉と同時に、子供の体全体が淡い光に包まれる。

「えっ、あっ。ちょっと! ありがとう!」

 進の言葉は間に合った。お辞儀をするのもなんとか間に合った。
 頭を上げると、笑顔の子供の姿は加速度的に透明度を増していき、あっという間に消えていった。

 進はそのまま、立ち尽くしていた。






「お兄さんや。雨の音に交じって大きな声が聞こえたけど、どうした? 噂の幽霊でも出たのかいな?」

 しばらくすると、後ろから神社総代の声が聞こえた。
 進は振り返った。

「出ましたよ」

 十二年も待ってくれていた、執念深くて暇な幽霊が――。
 心の中で、そう付け加えた。




(完)
[8]前話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ